広い店内
 
 
 
 ケルトに示された店が大きいことに少し驚いたが、今までの記
憶が殆どないクロノスにとってはこれが普通なのだと思うしかな
い。何より彼にとっての唯一とも言うべき判断基準である
2人はご
く普通に「大きな店ですね」と会話しながら店に入っていっている
のだから疑いようもない。
「何立ち止まってるの? 早く入ろうよ、暗くなっちゃう」
 ケルトにそういわれて店の入り口前で立ち止まっている自分が
以下にあやしかに気がついたクロノスは慌ててケルトに促される
ままに中に入っていくと、まず眼に入ってきた服の量と質に驚い
たようにそこでまた立ち止まって周りを見渡した。
 唖然とした様子で周りを見渡しているクロノスにケルトはどこ
かまんざらでもないような表情で彼を見上げていた。
「へへ、すっごく広いでしょ? よくここに僕は服を買いに来るん
だ」
 まるで宝物を自慢するような子供らしい笑みでそういってくる
ケルトにクロノスもそっと視線を向けると、ふんわりという表現
がもっとも適切だろう微笑を浮かべて
「はい。とても広くて驚きました」
 そう答えた。もちろん建前やお世辞を言えるような器用な性格
でもないのでそれが本心であることは間違いなく、だからこそケ
ルトも誇らしげな笑みを浮かべたのだった。
 記憶がないからこそ受け入れられることだということはこの場
ではまったく通用しないというべきなのか、もともとこういう場
所に来るのが普通のケルトに残りの2人は記憶喪失中。とてもで
はないが普通の判断を求めることのできる相手も、突っ込んでく
れる相手も求めるべきではない状況なのである。
「でも本当に広いですよね。僕もあまり記憶があるというわけでは
ないのでよくはわからないですけど、結構広いでしょ? ここ」
 2人に合わせるようにしてボリスの素直に感想をこぼすと、ケ
ルトは少しばかり考えるように顎に手を当てながら首をひねって
いたが
「たぶん普通じゃないかな? ここ以外殆どいったことないからあ
んまり比べれる場所がないけど、たぶん、そうだと思う……たぶ
ん」
 ボリスからの問いに困ったように自信なさげにそういうと「ほか
の店も行くようにしなきゃなぁ」と呟いた。
「そうなんですか? あ、でも確かに服屋じゃなかったけど、ほか
の店はここより狭かったですよね」
 今日言った店を思い出しながら呟くクロノスだが、飲食店に守
護石店、武器屋では比べる基準が根本的に間違っているというこ
とに気がついていないらしい。
 だが残りの2人もそのことには突っ込むことなく「確かに」な度
々いっているのだからどうしようもない。請う突っ込み役……。
「まぁ、いいや。とりあえず早く選ぼう」
 今までの会話にいささかの疑問は感じたようだが、それが何な
のかわからず考えることを放棄したケルトは2人にそういうので
クロノスは軽く店を見渡して改めて店内を見ると
「といわれても、広いですし、場所わかりませんよね?」
 そう尋ねた。
「うん、だから1度店を一周しようと思ってるんだ。行かなくても
いい場所とかあるしね」
 もちろん一周する必要はないのだが、こうも広くてはすぐに迷
いかねないしある程度場所を知っていたほうが時間の短縮にもな
るのは事実なのでそういったのだ。それでなくてもケルト以外は
全員、この店は始めてである。万が一に備えておくに越したこと
もない。
 クロノスもボリスもそのケルトの提案に否はないらしく頷いて
店内を見て回るために歩き出したのだった。

  
























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