行き先
 
 
 
 店主と別れたあと刻兎を抱き上げ撫でながら人のいなくなった
通りを見渡した。元からこうなのかもしれないが人がほとんどい
ない分ずいぶんと寂しい雰囲気だ。
「これからどこへ行くんですか?」
 クロノスはしきりに周りに意識を向けているので、ケルトに問
うようにボリスが声をかけるのを聞きながら周りをみていた。
「クロノスさんの服買いに行こうか? ボリスさんの服も買いたい
ですし」
 クロノスはそのケルトの言葉にそちらを見ると次いで自分の服
を見てみた。別段造りが悪いというわけではないが、どう考えて
もこれは女物である。はっきりいってあまり着ていたいとは思え
ないのも事実なのだが、服を買いにいくのはいいが正直に言うと
あまり服装にはこだわりも執着もない身なので、買いたいと思え
る服装も思いつかずどうしようというのが感想だった。
「武器店に行きたいのですが」
 今行ってもほしい服は思いつかないという結論に達したクロノ
スは、少しばかり困り気味にそう提案するとケルトはまるで化け
物の声でも聞いたような、なんともいえない珍妙な表情でクロノ
スを見上げた。何を言ったんだこの人はとでもいわんばかりのケ
ルトの表情にクロノスもどう返していいかわからず周囲に視線を
彷徨わせた。その表情は誰が見ても解るぐらい困り果てていた。
 そしてクロノスを見上げたままのケルトもその表情に困惑して
いるのか何も言ってこず、2人はそのままの状態で固まってし
まった。
「どうしてですか?」
 最初にクロノスに問いを掛けてきたのはボリスのほうだった。
このままでは硬直状態が続いてしまうと思っての問いだったのだ
ろうが、クロノスにとってもその問いはありがたかった。答えな
くてはならないとわかっていてもなかなかどう説明していいのか
言葉も、話すきっかけも見つからずにいたのだ。
「い、いえ、今服屋に行っても買いたいものも思いつかないし、そ
れなら言ったことのない店に行きたいなあ……と思いまして」
 「迷惑でしたか?」最後に小さく付け足した言葉は相手の迷惑
だったろうかというように言葉尻へいくほどに小さくなってい
た。
「え? そんなことないよ! ちょっと意外だったけど……」
 ケルトはすぐにクロノス呟いた気配に反応して返したが、それ
にクロノスは苦笑で返した。
「じゃぁ、近くにいい店があるからそこにいこう」
 というと前を歩き出した。
 そのケルトの後姿を見送ってからボリスが不思議そうにクロノ
スのほうへと視線を向けてきて
「クロノスさんはどのような武器を買うおつもりなんですか?」
 と尋ねてきた。正直に言うと使える武器などあるのかと尋ねた
いのだが、その問いは何となく、憚られた。
 クロノスはその問いに相手の本心も察したのか苦笑を返すと。
「使えるものなんてないんです。だから向こうについてから考え
ようかなって」
 困ったように頬を掻きながら苦笑して答えるクロノスにボリス
も困ったように、それでもどこかばつが悪そうに笑みを返した。
「そうなんですか」
「そうなんです」
 ボリスからの問いにため息混じりに返すとケルトの後を追うよ
うに歩いていったのだった。

  
























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