微かな望郷
 
 
 
 ボリスはクロノスの後を追うように歩いていたが、ふとケルト
は何か買うのだろうかと思い自分よりも数歩先を歩く金の髪の少
年に声をかた。
「ケルト君、ケルト君は何か買うんですか?」
 急の声をかけられたケルトは「へっ?」と驚いたようにボリスに視
線を向けると立ち止まった。
 その立ち止まったケルトに合わせるようにクロノスも足を止め
ボリスのほうに驚いたような表情を向けると、ついでケルトにも
同じような表情を向けた。
「うーん、今は特に買う予定もないよ。何で?」
「いえ、ケルト君もなにか買うのかと思ったので」
 ボリスの問いにそうきょとりとした表情で答えるとまた正面に
視線を向けた。
「ほらあそこ、あそこにちょっと変わった建物が見えるでしょ? 
あそこが武器店なんだ」
 指で指して場所を示しながら言うケルトにあわせて視線をそこ
に向けると、クロノスはなぜか軽く望郷の思いに駆られた。記憶
がないからわからないがもしかしたらかつて住んでいた場所に同
じような建物があったのかもしれない。
「変わった建物ですね」
「うん、『剣鬼の民』って言う一族の店なんだって」
「『剣鬼の民』ですか」
 ボリスが建物に対する率直な感想を伝えるとケルトはそれに対
し苦笑でそう説明した。
 クロノスはその説明を聞きながらもしかしたら自分もその種族
なのだろうかと首を傾げたが、なにやらそうではないような気も
して顎に手を当てると首をかしげたのだった。
 店の中もまた記憶の中にある慕情のようなものをくすぐるよう
な香りがして、クロノスは眼を細めるとその匂いを嗅ぐように鼻
をひくつかせた。木造特有の匂いがして、それがずいぶんと何故
か懐かしい気持ちにさせた。
「懐かしい気がしますね」
 小さくそう呟くとその言葉を聞いたケルトが意外そうな表情で
クロノスを凝視していた。
 そのケルトの反応にクロノスは「え?」というように視線を向け
た。
「どうかしたか?」
 自分を見つめたまま動かないケルトの様子にそう声をかけると
やっと相手に気がついたとでもいうようにびくりと反応して首を
横に大きく振った。
「ううん、『懐かしい』なんていうとは思わなくって。大抵の人
は変……じゃなくて、不思議な場所だっていうから」
 あわててそう弁解するように言うケルトの言葉に納得した。
 確かにクロノスは記憶がなくてもこの店を懐かしいと感じてか
すかに慕情を募らせていた。言い直したのはおそらく『懐かし
い』と評した自分を気遣ってだろう。誰だって故郷のような思い
を持つ場所を変といわれていい気はしないものだ。
「にしても誰もいませんね」
 周りを見渡してボリスがそういうとケルトが「すみません」と声
をかけてみたが返ってきたのは痛いまでの沈黙だった。
「誰もいないのでしょうか?」
 クロノスが首をかしげて周りを見ていると店の奥のほうから小
さな、まだほんの子供というべき歳だろう男の子が出てきて顔だ
けをのぞかせると3人の姿を確認して
「ごめんなさい、店主が来るまで武器を見ててもらえますか?」
 そういって引っ込んでいってしまったのだった。
 3人はその男の子の言葉にお互いを見やった後クロノスの「仕
方ないですね」という言葉と共にそれぞれ見たい武器の置かれて
いる場所に異動していったのだった。

  
























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