白兎と灰色兎
 
 
 
 青年から兎を上げるといわれ簡単に頷けるほどクロノスは図々
しくはないので抱いた兎を慌てて両手に持つと
「いえ、全部捕まえれたわけではありませんし、悪いですから」
 そういってその兎を青年に突きつけるが、それに対し青年はそ
の兎をクロノスの手ごと押し返してきた。
「いえ、そんなことありませんよ。むしろ貰ってください。
 その子もあなたになついてるようですし、ケルト王子とそちら
の方もどうぞ」
 ニコニコと、絶対に引かないぞといわんばかりの笑み、という
か気配を発しながら言う青年に少したじろぎながらも
「いえ、本当に悪いですから」
 といって断ろうとしたがボリスが腕を軽く叩いてきたのでそち
らを見ると、仕草で素直に受け取っておけという彼に少し眉を寄
せたが、相手にも面子というものがあるのだということに思い至
り深くため息をつくと
「分かりました。頂きます」
 そう答えたのだった。
 ケルトもその答えに安心したような息を軽く漏らすと、そっち
はどうするかと問うように見てくる青年に満面の笑みで頷いて答
えて見せたのだった。
 その後でボリスも何かを伝えたらしいものの、あまりにも小さ
な声でクロノスのところまで届かなかったが、青年の表情から受
け取ると答えたのだろうということだけは判った。
「じゃぁ、どの子にしますか?」
 楽しげに尋ねてくる青年にクロノスはこの子で良いですと両手
に持っていた兎を改めて抱き上げた。
 それに笑みで答えると次はケルトとボリスに視線を向けてきた
ので、2人は青年の後ろにある檻に近づくとどれにしようかと相
談を始めた。クロノスもそれに付き合うようにしてそばによると
中の兎が一斉にきゅうきゅうと鳴きだした。
「かわいいですね」
 率直な感想を呟くクロノスに2人は顔を見合わせて苦笑しあっ
てから改めてどうしようかと相談しあった。
 クロノスはその中を見ながら色々な色があるんですねと素直に
感心したのだった。
 何せ兎は黒や灰色、茶色に白に薄い水色味を帯びたものまでお
りさすがに奇抜な色はないが、それでもさまざまな色の兎がいた
のだ。
「ボリスさんはほら、その灰色がかった子が良いんじゃないです
か?
 ずっと見てるし、なんだかボリスさんに似てるようなき
がしますし」
 しばらく見ていたクロノスはそうボリスに灰色がかった黒目の
兎を指差しながら言うと、クロノスはその兎に視線を向けてから
少し考えるように首を傾げると、その兎に手を伸ばして笑みを浮
かべると「おいで」と呟いた。
 すると兎はしばらく警戒するようにボリスの顔を見つめていた
が、安全だと解ったのかそっとよって手に乗ってきた。
 それにボリスは嬉しそうに持ち上げて顔を見ると灰色がかった
黒目の黒色もちの兎で、クロノスと同じように抱き上げると
「かわいいですね」といってケルトのほうへ視線を向けた。
 ケルトはすでに茶色の毛に紫の眼の兎を選んで抱き上げてい
た。胸には紫の石が輝いていた。
 その3羽を選んだ3人はお互いを見てからケルトが代表として
口を開いた。
「この子を貰っても良いですか?」
「かまいませんよ。私が雇われてる店にはその刻兎用の服も置い
てますのでよければ見にいらしてください」
 そういってきたので「ならこれで」といって嬉しげにそれぞれ
刻兎を撫でて青年と別れた。

  
























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