説明と謝罪

　説明に相槌を打ちながらごく普通に納得したクロノスだが、普
通は兎がそんなことができるとは思わないと思うはずのことにも
疑問を持った様子はなかった。

｢そういうこともあるんですね｣

　そう隣に立つボリスににこやかに笑いながらいいながら腕に抱
いた薄い水色見のかかった黒目の兎の頭を軽く撫でて｢すごいで
すね｣と小さくいっていた。

｢うぇっ！？　いえ、そんなことありませんよ。かなりまれな
ケースです。

　確かに今クロノス君が持ってる黒色なら無理ですけど、青色持
ちの魔力はそこそこ強いから扉開くぐらいはしますよ。でも家の
中で脱走されてしまった。という程度で、こんな風に大脱走と
いった例なんて聞いたことないですし｣

　ニコニコと笑いながら納得するクロノスに少し驚いたというよ
うに彼のほうを向いて、眼を見開いたボリスはそういうと小さく
ため息をついて苦笑した。

　そのボリスの説明に｢へぇ、そうなんですか｣と納得したよう
に頷くと兎の首の下あたりを優しく撫でた。

　優しく撫でてくる指の動きが気持ちよいのか自分のほうから顔
を摺り寄せてくる兎にそのほほを撫でるような動きに変えてみる
と、やはり楽しそうに摺り寄せてきて何を思ったのか撫でてくる
指をぺろりと小さな舌で舐めてきた。

　柔らかい毛の手触りを楽しみながら撫でていると、急にざらり
とした感触が指の先を掠めてきたのに驚いてクロノスはは少し下
を向くようにしてみたが、そこには動きの止まった指を確かめる
ように更に舐める兎がいるだけでそれに苦笑しながら指をまた動
かした。

｢そういえば僕たちが捕まえた中にその、えーと、青色持ち、で
したっけ？　いましたか？｣

　ほほを撫でる手をとめないようにしながら青年を見るために軽
く顔を上げて尋ねると、隣でケルトとボリスははたとしたような
表情で青年に視線を向けた。

　確かに考えてみれば彼らには蒼い石を持った兎を捕まえた記憶
はなかった。その上クロノスがそう尋ねたということは彼も捕ま
えた記憶がないということになり、それはつまり、逃げた。とい
うことだった。

｢あ、どこかに行ってしまったようですね。

　でも良いですよ。どの道青色持ちってあまり売れませんし」

　青年はあっさりとした笑みでそういうと、本当に気にしていな
いという感じで両手を顔の両側で振った。

　クロノスは詳しいことはさっぱり解らないのでなんとも言いよ
うがないが、ケルトやボリスはそれで納得したようなのでそうな
のだろうと思うことにした。普通珍しいなら売れると思うのだ
が……。

｢そう、ですか。すみませんでした｣

　青年の説明に眉を寄せて心底申し訳なさそうな表情になって
謝ってみたがそれにも｢本当にいいんですよ｣と返してきたので
余慶に兎を撫でながら苦笑とも微笑とも取れる微妙な笑みを浮か
べた。そのクロノスの表情にも青年は曇りも後悔もそれこそ残念
という表情すら感じさせない見事なまでの、まさしく会心のでき
というような笑みをニコニコと浮かべていた。

｢あ、そうです。刻兎たちを捕まえてくれたお礼に１羽づつ差し
上げますよ｣

　いいことを思いついたといわんばかりの笑みでそういってくる
青年の笑みには断られるという考えは微塵も感じられなかった。

　その表情がなぜか懐かしくなって、クロノスはどうしてだろう
と首をかしげた。なぜか、胸の奥が痛むような気がした。