選び購入

　ピアスを選ぼうよといわれて従ったものの、耳に穴などあけて
いないクロノスはやはりというべきか買う気がせず、かといって
選ぼうといわれた手前選ばずにいるのも気が引けるらしく、なに
か耳に穴を開けずにつけれるイヤリングの系統はないかと探すこ
とにしたのだった。

　そうやっていくつかのイヤリングを見つけはしたが、どれも気
に入るような色ではなくさてどうしようかと首をかしげた。

｢なるべくなら、穴はあけたくありませんしね……｣

　そう、本音をポツリと漏らしたが、かといってケルトの好意を
跳ね除けることもできないので本当に困ったというように手を口
元に当てながら考えていると、その様子に気づいたのか、ボリス
が不思議そうに

｢そういえばクロノスさんって、ピアスの穴、あけてるんです
か？｣

　と尋ねてきた。

　一方ケルトもいろいろとピアスなどを探していたがボリスのそ
の一言に、｢あっ｣というような表情をしてクロノスのほうに視線
を向けてきた。どうやら言われてやっと気づいたらしい。

｢あ……そういえば、つけてない、よね？　ピアス｣

　改めてクロノスの耳辺りを見ながら呟くが、あいにく長く豊か
な髪にさえぎられそれを確認することはできなかった。

　そのことにクロノスは少しばかり罰が悪そうな表情をすると

｢ええ、なんとなく、両親からいただいた体に傷をつけるのが忍
びなくて……｣

　そう答えた。

　ケルトはその答えに手に持ったピアスを元の位置に戻すと

｢そっか……。じゃぁ、イヤリングだね。こっちにたくさん種類
があるからここからえらぼっか｣

　そう楽しげにクロノスに告げ、何のかんのと探し始めた。

　落ち込むのではないかと思っていたが、それもなくすぐに別の
ものを探し始めたケルトに安心して｢なら僕はブレスレットでも
探しますね｣といっていくつかのブレスレットに視線を落とし
た。

｢クロノスさん、これは？　これはどう？　クロノスさんと同じ
色｣

　しばらくして気に入ったものを見つけたのかケルトがそういっ
てクロノスに見せたのは深い透明な緑色をしたエメラルドだっ
た。

　クロノスはそれを素直に受け取ると耳のあたりに見えるように
持ち上げてみた。といってもここには鏡がないので自分では見え
ないからケルト達に見せるといったほうが正しかった。

｢わぁ、綺麗！　綺麗！｣

　そうやって見せてみると、ケルトから嬉しそうな声が上がり、
ボリスもよく似合っているというように笑みを浮かべながらうな
ずいていた。

｢やっぱり目と同じ色ってよく似合うよね｣

　クロノスも乗ったイヤリングを見ながらそういうと、他にはな
いかな？　というように探し始めた。

｢あ、ねぇ、この薄水色の石は？　意外と似合うかもよ？｣

　見つけた石を持ち上げていってくるケルトにボリスが少し考え
てからなぜかわずかに赤くなった。

　そのボリスの反応には気づかなかったが、でも何か言いたげな
ボリスを不思議そうに見た。そのクロノスに気づいてはいないよ
うだが、それでも先ほどよりもはっきりと顔を赤くして言いにく
そうに口を開いた。

｢それは……アクアマリンといって………………幸せな…………
結婚を導く……石です……｣

　と蚊の鳴くようなか細い声で呟いた。

　そのボリスの説明にケルトは少し間を空けて一気に真っ赤に
なった。

｢僕たち、まだ結婚する年じゃない……ですよね？｣

　その説明にはて？　と記憶のないクロノスは首をかしげながら
そう隣に立つケルトに尋ねると、ケルトはさらに赤くなった。確
かにケルトは言うに及ばずだが、くろのすもまだ結婚するような
歳ではなかった。

｢……………………………………。

　そうですね｣

　クロノスの追い討ちに近い一言でうつむいて蚊の鳴くような小
さな声でそう言うとその石を棚に戻したのだった。

　そして何のかんのと言い合いながらも結局はアイオライトと
ロッククリスタル、アパタイト単体のブレスレットにアベンチュ
リンとクリソベリル、単体の琥珀のネックレスとサファイアのイ
ヤリングを購入することでまとまった。

　実は当初これにさらにブレスレットを３つとネックレスと７つ
も追加しようとするケルトを宥めすかしての結果なのだ。これで
もかなり高価なので十分だといってやっと納得させたのだ。

｢じゃぁ、いくらですか？｣

　結局ボリスがアマゾナイトのピアスを、ケルトが黄色のアラゴ
ナイトのブレスレットを買うことになったらしくそう尋ねるケル
トに、店主は少し考えるように間を空けると

｢代金は要らん｣

　そう簡潔に伝えてきた。

｢え？　どうしてですか？｣

｢お前らが気に入った｣

｢でも、それでは生活が……｣

｢気にいらん奴らからぼったくっている｣

　クロノスが困ったように尋ねてもそう短い答えだけが返ってき
て取り合ってはもらえそうになかった。