会話と静止
 
 
 
 ケルトは店員が完全に離れたところで追加注文をしたクロノスに
笑みを向けた。
「………………………………………………チョコパフェ…………です
か?」
 だが流石のボリスもやや引き気味に、斜め前に座るクロノスに尋
ねた。
「甘いのがあるってわかったらたのまない訳にはいきませんよ。」
 ボリスの問いに満面の笑みでまさしく至福と言わんばかりに答え
た。
 だが、ボリスからしてみればそんな表情しないでほしいものであ
る。いくら甘いものが苦手でないといっても
(むしろ好きに入る部類
であっても
)特大2つは胃にくるものがある。
「やっぱり甘いのは食べないと損ですよね〜〜。」
「そうですよねぇ。」
 2人揃ってうれしそうに話す姿を見てボリスは本気でついてきた
ことを後悔してしまった。
 甘いのが好きなのはわかるが、少しは自嘲してほしいものである。
見ている方が胃に悪いものもある。
 幸せそうに笑う2人を思って本音は言わなかったが、これから更に痛
みそうな胃を押さえて、あまりたのまなくてよかった。といきなり自
分の行動を誉める羽目になたボリスだった。そうやっている間にも彼
らの間では楽しげに甘いものの話が盛り上がっていた。
 そして甘いものの話もして満足したのか今度はボリスに
「ボリスさんは? あまりたのみませんでしたよね? ボリスさんは小
食なの?」
 と話の矛先を向けた。
 ボリスはそのケルトの言葉にきょとりとした表情になると、ばつが
悪そうに頬を掻いた。
「いえ、小食、と言う訳ではないんですけど、その、お金が……。」
 どうやら川に流されていた時に一緒にどこかに流されたらしく、彼
の持ち物はなかったので多分それを気にしているのだろう言葉だった。
もしかしたら小額でも持っているのかもしれないが。
 だがそのボリスの言葉に完全に呆気にとられてしまったような表情
になったケルトが、口をぽかんとあけて何も言えずに固まっていた。
まさかそう返されるとは思っていなかったらしい。
 それを聞いたクロノスもあ、と思った。よくよく考えてみれば彼も
お金を持っていないのだ。それを思うと先程のは少々たのみすぎたか
もしれないと思ったのだ。実際はあまりたのんでいるというわけでも
ないのだが。
 ケルトは暫くして俯いたあと肩を震わせていた。どうやら呆れてい
るか、怒っているかのどちらからしく、手も僅かだが震えていた事か
ら怒っているのだろうと神巫は推測した。最も外れているだろうなと
も思っていたのだが。
「それぐらい僕が出すよ!!! これでもっ…………ふぉふぐ
ふぁ…………っっ!!」
 一気に顔を上げて声を張り上げたケルトに最後まで言わせる事なく、
クロノスは慌ててケルトの口を両手で一気に塞いだ。その際勢いあまっ
て後ろに反り返り、植木撥に頭を叩きつけてしまったのは、見ないで
おく事にする。
 ケルトはケルトで勢いまかせに反り返った挙句、強打した頭を押さ
えて悶絶していた。かなり痛そうである。
 クロノスはは頭を押さえ悶絶するケルトの様子に、勢いを付けすぎ
たと思い必死に頭の瘤ができているであろう場所をさすった。
 実を言えばこんな場所で『王子』などという身分を大声で宣言され
ては堪らないと思い、咄嗟に口を塞いだのだが、やや立ち上がりかけ
ていたケルトの姿勢では、その勢いを受け止める事ができなかったら
しい。
 最も半ばそれも無駄だったかもしれないとは思っているのだが。何
せ先程の途中までの声でも周りには充分に聞こえていたうえに、先程
の音は確実に店内に響き渡っている。その所為で周りの客などはケル
トを見て明らかに痛そうな表情をしている。
「〜〜〜〜〜〜〜っ! つぅ〜。クロノスさん……ひど…………。」
「ご、ごめんなさい。でも、こんな場所で王子だなんていうわけに
は……。」
 酷い痛みに涙眼で睨んでいってくるケルトに、クロノスはバツが悪
そうにそう言って視線を外した。
 クロノスの居心地が悪そうな、それでいて申し訳なさそうな表情に
ケルトも不貞腐れながら席に座りなおした。別にクロノスの言い分が
解からないわけではない。外に、それもこんな風に店で食事をとって
る方がおかしいという事も解かっているのだ。
 だが、それでもこの行動は少しいただけないと、いまだに鈍い痛み
の走る頭を撫でながら思った。
 ボリスはそんな2人の様子を、完全に取り残されたも同然な状態で
見ていたが、それに気付いたクロノスが小声で
「すいません、ちゃんと話してなかったですよね。ケルトさんはこの国
の王子なんです。だからそんな事を心配するな。ってことだと思いま
す。」
 と説明した。
 その言葉にボリスもやっと納得したというように手を合わせると、
少し困ったように苦笑を向けた。立場よりも年齢的に、年下に奢って
もらうというのは複雑です。と暗に言っていたのだが、クロノスには
それはうまく伝わらないかもしれないと思いながら。
 だがクロノスはそんなボリスの心配をよそに相手の考えを正確に読
み解いて、それでも仕方ないとでも言うように苦笑して、肩を竦める
だけで現状を諦めるように示したのだった。
 そんなやり取りをしていると、店員が注文した内のいくつかを持っ
てきてくれた。

  
























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