昼の城下街

　最初に城下に辿り着いたのはやはり、最初に走り出したケルトだっ
た。

｢やったぁ！　いっちいー。｣

　城下の入り口に辿り着いたケルトはそう嬉しそうに万歳をしてそ
の場に止まった。すると後ろから急に伸びてきた腕が喜んでいる彼
を掴まえた。

｢うひゃあわ！？｣

｢もう、先に行くなんてぇ、ずるいですよぉ。｣

　全力で走りでもしたのか、かなり荒く乱れた息で後ろから思い切
り体重をかけて、不平の声をかけたのはやや掠れてはいたが、間違
いなくボリスのものだった。だが、いくら彼が軽いとはいえ、ケ
ルトよりも背の高い彼の体重は意外と重く感じた。

　そんな彼のすぐ右隣ではクロノスが崩れるように座り込んでのが
視界の端に入った。

｢はぁ、はぁ、はっ。き、きつかっ……った、で……す……。｣

　文字通り肩で息をしながら言っているところを見ると、彼はあま
り体力があるわけではないらしく、それを見ると流石に悪い事をし
たような感じになった。

｢ご、ごめん……。きつかった？｣

｢………………す、少し……。ボリスさんは大丈夫ですか？｣

　やはりきつかった事に変わりはないらしくそう小さく答えると、
少し辛そうにそれでも精一杯の笑みを向けたのだった。

　ボリスもそのクロノスの言葉に苦笑して頷くとふらつきながら立
ち上がった。

｢僕は、大丈夫です。ただなんとなく疲れただけですから。｣

　心配そうに自分を見上げてくるケルトにそうにこりと笑って答え
るとクロノスの方を見た。

　クロノスはもともと体力があるわけではないらしく、肩で荒く息
をしていて汗も少しばかりかいているように思えた。もしかしたら
汗をかきにくい体質なのかもしれない。

(体力が僕達の中で1番無いのかもしれませんね。)

　そんなクロノスの様子に内心でそう思うと、心の中で1つ溜息を
ついた。

｢ケルト君、少し喉も渇きましたし、どこかで１度休みませんか？｣

　ボリスはそんな内心を隠してケルトにそう提案した。確かに彼自
身川に流されていたとはいえ、何も飲む物など口に含んでないので
当然の言い出しだった。

　クロノスもその言葉にまだ少しふらつきながら立ち上がって同意
するように頷いた。ケルトが尋ねるように見上げてきたからだ。

｢僕も、賛成です。大分時間もたっていますし、いいんじゃないで
すか？｣

　実際春先とはいえ外をそれなりの時間歩いたので、喉が渇いてい
たからその提案は正直ありがたかった。

｢んー。じゃぁ城下探索もかねて近くのお店に入りましょうか。｣

　クロノスの言葉に少し考えて２人にそういうと城下へと入っていっ
た。そのケルトを追ってクロノスとボリスもついていったが、どこ
の店に入るのか。という点でボリスは一抹の不安にも似たものを感
じていたが、クロノスはどうやら回りが気になってそれどころでは
ないらしい。

　ケルトはそんな２人をよそにすたすたと道を迷いなく歩いていっ
た。だが昼に近いこの時間、人も多くそんなにすたすたいかれては
すぐに背の低いケルトは見失ってしまいそうになり、後をついてい
くほうも気が気ではない。

｢ケルトさん。お願いですからもう少しゆっくり歩いていください。
見失ってしまいます。｣

　流石に２度３度と見失いかけてこれ以上はと思い服を掴みそうい
うと、ケルトは少し驚いてから、２人がこの街を知らないという事
を思い出し顔を一気に赤くした。

　ケルトのその様子にクロノスは不思議そうに首を傾げた。

(どうかしたんでしょうか？　もしかして、日射病……のわけない
ですよね、この春先では。じゃぁ……、風邪？)

　ケルトの反応にかなりずれた事を考えたクロノスだった。

｢ごめんなさい。そういえば２人ともこの街の事ほとんど知らない
んだよね。ゆっくり歩くね。｣

　赤くした顔のままそういうと羞恥からか背を向けようとしたが、
何かに気付いたのかもう１度振り向くとボリスとクロノスの腕をつ
かみ、引いて歩いていった。

｢わっ！？　え？！　ケルト君、どうしたんです？？｣

｢え？　ちょっと、ま、待って…。｣

　急に引かれたクロノスとボリスは困惑気味にお互いを見やったが、
当のケルトは止まる素振りもなく、されるがままについていくこと
しかできなかった。