緑と白の草原で

　城下へと戻る道はクロノスもちゃんと思えていたが、ケルトの少
し遠回りになるけど別の道で帰ろうという提案に同意してきた道と
は別のルートをたどって歩いていた。

　その道は先程の緑の草原とは異なり、緑の草と白い可愛らしい花
が咲き誇る場所だった。

｢うわー、白つめ草の草原ですね。綺麗。｣

　緑と白が鮮やかに美しく広がる草原を見て簡単とも取れる溜息と
共に呟いた。

　それについてはボリスも同意見だったらしく、その草原を見て僅
かに息を呑むような仕草をしてから頷いた。

｢へへ。此処も僕のお気に入りなんだ。今は白つめ草だけど、これ
か蓮華も咲き始めるよ。｣

｢それも、綺麗でしょうね。｣

　ケルトの自慢げな言葉にゆっくりとボリスはその白と緑に薄紅の
花が加わったこの草原を思い浮かべて呟いた。

　クロノスもその景色を思い浮かべてその色の鮮やかさを直に見た
いと思った。

｢見に来たいですね。

　んー。…………見に来ましょうよ！　また、ここに。｣

　見たいと思うと本当に見たくなるのが人の性というべきか、そう
言うとケルトに満面の笑みを向けた。

　　ケルトとボリスはその言葉にきょとんとした後、お互いに顔を
思わず見合わせた。まさかこんな事をいってくるとは思わなかった
のだ。

｢んー、えっと……。どうする？　僕は全然構わないんだけど。｣

　もう１人の相手であるボリスを見上げて尋ねると、ボリスも口元
に軽く笑みを浮かべて

｢そうですね、見に来たいです。きっと綺麗でしょうし、ご迷惑で
なければ。｣

　そう答えたのだった。

　ケルトはその言葉に笑顔で頷くと

｢後１週間ぐらいで蓮華の花も咲き誇るから、そのあたりで此処に
来よう！　ね。｣

　そう嬉しそうに左右にいるボリスとクロノスに言ったのだった｡

　それにつられるようにクロノスとボリスも満面の笑みでそれに答
えたのだった。

　３人は少しの間そうやって笑いあっていたが、お互いに顔を見合
わせると

｢それでは城下に行きましょうか。まだ見てない場所もあることで
すしね。｣

｢えー。噴水は見たじゃん。｣

｢あ、噴水の花も元気になったか見にいきましょっか。｣

｢…………………………そういう意味じゃないんだけどな。｣

　足元の三つ葉を１つ摘み、城下へと続いているらしい道を歩きな
がら言うクロノスに追いつくように早足で寄っていったケルトが反
論するが、クロノスはそれに対し顔をまさしく輝かせて、全く違う
事を大真面目に答えたのだった。

　ケルトはその会話から完全に外れてしまった言葉にがっくりと肩
を落としてそう、深い溜息と共に呟いた。

　ボリスはその２人をきょとんとした表情を見ていたが、ケルトの
｢早くこないと、おいてくよー。｣という催促の声に慌てて走って
いった。

　クロノスはそこから１０歩も歩かないうちに後ろを向いて足を止
めた。ケルトも彼に合わせるように足を止めるとボリスが追いつく
まで待った。

｢ありがとうございます。｣

｢いいえ。じゃ、いきましょっか。｣

クロノスの気づかいに素直に礼を言うと、少し頬を赤くして答えて、
照れ隠しのように前を向いて歩いていってしまった。

｢あ、待ってください。照れなくてもいいじゃないですかぁ〜〜〜。｣

｢照れてません！！！｣

　早足で歩いていってしまったクロノスを慌てて追っていったがそ
れに更に紅い顔を紅くして反論してきた。そんな紅い顔でいっても
あまり説得力はないように感じるのだが。

　そして前を見ると、遠目に白い街と蒼く、空と同化しそうなほど
に鮮やかな蒼い城が見えた。

｢………………あれが、この国の……？｣

　その景色はまさに名画のようで、息を呑むようにそう誰にも聴こ
えないほど小さく呟いた。それは隣りを歩くクロノスには聞こえな
かったらしく彼も小さく

｢ああ、やっぱりこの国が誇る白亜の首都は遠目に見ても綺麗です
ね。｣　

　そう簡単の溜息混じりに呟いた。

　そう小さく言葉を２人とも聞こえないほどの大きさで呟いていた
が、少し前を歩くケルトには全く聞こえていないらしく｢あ、そうだ！｣
と元気よく振り向き

｢ね、城下まで競争しましょう！｣

｢え？｣

｢んじゃ、行くよう！｣

｢あ、ずるい、ケルト君！｣

事情を呑みこめずにいた２人を置いて走って行ってしまい、それを慌て
て追うように２人で１度顔を合わせてから走っていったのだった。