川に倒れた青年
少しの間歩いていると、さらさらと水の流れる音が聞こえはじめ
クロノスは待ちきれないというようにケルトの腕を引いていった。
「ケルトさん、もうすぐですよね? 川の音が聞こえます。」
早く行きたいというように肩を押すクロノスに苦笑気味になりな
がら歩いていくと、涼やかな流れを称えた穏やかな川辺に辿り着い
た。
けるとはその川辺に辿り着くと、近くに見える木の影の方を指差
し
「あそこにクロノスさんが倒れてたんだ。」
と説明した。
クロノスもそのケルトの指を追ってその場所を見た。
「…あそこですか。
………………なんっにも思い出しませんね。っていうか、ここど
こですかって感じさえしますよ…。」
考えるというよりも思い出すように見つめていたが、結局何も思
い出せなかったらしく首を振ってそう答えると、軽く溜息をついた
のだった。
ケルトもそのクロノスの言葉に少し苦笑して仕方ないよねといっ
て周囲を軽く見渡した。クロノスもまた同じように周りを見ている
と視界の端、岩の更に奥の影に何か動くものを見つけて目を凝らし
た。
(………? あれ…?)
動いたものが何かわからずよく見詰めると、蒼っぽい細糸の集ま
りのようなものと、白のような布、そこから伸びる、白い…
「ひ、人の手ぇっ!?」
それが人の手と気付きクロノスは素っ頓狂な声を上げてケルトの
腕を慌てて引っ張った。
「へっ!? 人!? ど、どこっっ!??」
クロノスの言葉にケルトも驚いて彼の指差す方へと視線を向ける
と、そこには確かに濡れた青に似た色の髪と人の手が見え、慌てて
そこに行った。
その岩の影に倒れている人は全身が濡れ、少し前まで川に流れて
板にかまだ川に半分見をつけて体も冷たく冷えているようだった。
「ど、どうしよう、クロノスさん。」
「どうしよう。じゃなくてっ! 早く川から上げないとっっ! 手
伝ってくださいっ。」
混乱するケルトにそう怒鳴ると必死になってその青年を上げよう
と引っ張った。ケルトもそれに慌てて手伝うために川に入って足を
持ち上げた。
「せーの。で上げますよ。いいですか?
っせーの!」
足を持ったケルトを見て、そう声をかけるとどうにかその青年を
岸辺へと上げたのだった。青年はその見かけによらず軽く、2人で
も思ったより簡単に上げることができた。
だが岸に上げるまではよかったがどうすればいいのかわからず顔
を見合わせた。無論ケルトはクロノスのとき同様城へ運びたいのだ
が、2人では少し無理があったし、何よりクロノスがすでに介抱を
始めてしまっていた。
「怪我はないみたいなんですけど、それ以外はよく解からないです。」
傷を負っていないか調べていたらしくそう眉を強く寄せて言うと、
心配げにケルトに視線を送った。
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