新緑の草原
 
 
 
 下の小川の流れる大通りを抜け、街を囲う外壁の重厚な門を抜け
ると、そこにはクロノスの予想を裏切り広大な大草原が広がってい
た。
「う、うわー。すごいですね。ひろーい、緑が綺麗です。」
 一面に緑の若葉が広がり、風が吹くごとにその鮮やかな緑がまる
で波打つように色を変え、サァァーと涼やかな音を立てた。
「この草原、昼寝をすると気持ち良いんだ。」
 ケルトはそのクロノスの反応に満足げに笑ってそう言うと、ふと、
彼の方へと目をやった。
 豊饒をもたらす大地の色にも似た明るく細くしなやかな茶色の髪
が風に揺れ、蒼と碧の服にもよくに合っていた。その姿はやはりど
こか中性的というか、精霊にも似た印象を見るものに与えもっと見
ていたくなる。
 昨日は否定されたがこの新緑の翠には本当に彼の茶色の髪がよく
似合うと思った。
 そうやって見つめていると、さしものクロノスも見られているこ
とに気付いたらしくケルトの方を向いた。
「どうしました? 僕の顔、何かついてます?」
 そう尋ねた。
 するとケルトは慌てたように顔を真赤にして「なんでもない。」と
いうとクロノスに背を向けすたすたと早足に歩いていったしまった。
 クロノスは何で慌てているのだろうと首を傾げながら早足で遠の
いていくケルトの後を付いて行った。
「ケルトさん、僕は川のどの辺りに流れ着いていたんですか?」
 暫く歩いていてふと疑問に思ったことを尋ねた。これから行く場
所のことを少しでも知りたいと思ったからだが、ケルトは少し考え
るような素振りを見せてから
「秘密です。」
 と意地悪く笑って、人差し指を口元に当てながら言ったのだった。
 クロノスはその答えに不満そうな表情をしたが結局何も言わずに
黙って後に付いて行った。
 少しして若葉の翠の中に鮮やかな白と赤の花が咲いている場所が
眼に入ってきてそちらに眼をやった。
「綺麗な花ですね。」
 その花を見てポツリとそう漏らすと、ケルトもそれに頷いて「花は
これからが綺麗だからね。」とどこか複雑そうな表情で同意したのだっ
た。
 そのケルトの表情には気付かず少しの間その花を見ていたが、早く
川にも行ってみたいと思い、もう1度眺めてから少し前を歩くケルト
の後を少し微笑みながらついて行ったのだった。

  
























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