甘い朝食
 
 
 
 中を見てクロノスは呆気にとられたように瞳を見開いてからケル
トに向かって「すごいですねー。」といったのだった。
 目の前の料理の量を見てこんな反応をしたのは、彼にとって『朝
食』と言うイメージがほとんどないに等しい状態になっているとい
うことと、単純にここが城という事が関係していた。そのため目の
前にある光景がここでの『普通』と認識されてしまったのだ。
「クロノスさん、その反応おかしいです…。
 本当に、…何、この量…。」
 だが隣りに立つケルトにとってはこの量は異常だった。そんな状
況でもクロノスに一言突っ込みを入れながら呆れを通り越し、茫然
自失といった様子で呟いた。それから察するに普段からこの量とい
うわけではないらしい。
 クロノスはケルトの言葉にきょとんとした様子で視線を向けた。
「普段は違うんですか?」
「普段はこの3分の1以下です。」
 クロノスの問いに即答で答えると、諦めたように溜息を零してか
らテーブルの席へと向かって行ったのだった。
 ケルトはいわゆる上座から右の2つ目の席に座ると右手のほうに
クロノスを呼んだ。其処に座れという意味らしい。
 彼もケルトの催促に笑顔で頷きながらその場に向かい座った。
 ケルトの右隣に腰掛けたクロノスは、目の前に出されたものを見
て本当に困り果てた。
(えーと、これはどうやって食べるものでしたっけ…??)
 目の前に出されたそれを困惑しきった表情で見つめた。記憶を失
う前ならば確実に分かっただろうが、今の彼にこの料理に対する知
識はかなり薄れていて、なんとく程度にしかわからなかった。
「? クロノスさん、スコーン、嫌いでした?」
 何時までたっても手をつけようとしないクロノスに心配そうに声
をかけてきたケルトに、彼はびくりと体を震わせて反応を返した。
「い、いえ、そうじゃないんです。ただ、どうやって食べるんだっ
たかなあ。と考えてて。」
 そう顔の前で手を振りながら照れと羞恥で真っ赤になって答える
と、スコーンを1つ手にとった。
 そのスコーンはそれなりに時間を置いていたためか、そこそこ冷
めていて、程よい熱さが指に伝わってきた。それに一寸笑いながら
確かこうだったはずという記憶というよりも勘を頼りにしていると
ケルトが横から
「これつけるとおいしいですよ。」
 と、半立て状の生クリームを指差してクロノスに笑顔で言った。
 クロノスはその言葉通りにその生クリームに手を伸ばすとスプー
ンに1すくいしてまだ熱の残っているスコーンに塗りつけると、ス
プーンを戻してからスコーンを口に運んだ。
 スコーンの持つ熱で少し溶けたような感じのする生クリームの甘
い味が舌に広がり、それを追うようにスコーンの微かな苦味と甘味
が広がっていった。
「美味しいですか?」
 口の中に広がる味をゆっくりと楽しみながら食べていると、ケル
トが少し不安げに尋ねてきた。
 そのケルトに向かうように笑みを浮かべると
「とても、美味しいです。」
 と答えたのだった。
 ケルトはその答えに満面の笑みを浮かべ「よかった。」と言うとま
た自分の手に持っているスコーンに噛り付いた。
 クロノスはそれを微笑ましげに見詰めながらまた別のスコーンに手
を伸ばした。
 次に手に取ったスコーンは普通のものより少し黄色味の強いカボチャ
の香りのするものだった。
 その香りに気付いたクロノスは少し迷った末にジャムを手に取り1
すくいすると、手に持ったそれにゆっくりと丁寧に塗りつけていった。
 そしてそれを口に運ぶと林檎ジャムだったらしく口の中に林檎の爽
やかな酸味と甘味が広がり、次いでカボチャの甘味が舌に残った。
「ん!? 美味しいですね。」
 上にのせたジャムが少し零れて、それを慌てて手で受け止めてから
ケルトににっこりと笑い言うと手にのったジャムを舌で舐め取った。
 ケルトはそのクロノスを見てちょっと驚いた表情をしてから、良かっ
た。と呟いたのだった。
「クロノスさんは甘いの好きなんですか?」
 ジャムを舐め取ったあと、残り半分となったスコーンを口に含んだ
クロノスにそう尋ねると、彼は少し考えた後コクリと音をたててスコー
ンを飲み込んで
「そうですね。苦いのや辛いのよりも甘いのが好きです。」
 と答えると逆に「ケルトさんはどうなんですか?」と首を傾げて尋
ね返した。
「甘いのが好きです。美味しいですもん。」
 そう笑って答えたのだった。
 クロノスもケルトの答えに満面の笑みを浮かべて何度も頷くと「そ
うですよね!」と両手を会わせながら言った。双方共に甘い物が好き
らしい。

  
























SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送