夜明けの街を眺め
 
 
 
 外はまだ夜が明ける前で地平が白く滲んでいるだけだった。
 そのままライトスタンドを落とさないように手で支えながら夜の
明ける前の景色を眺め続けた。
「綺麗。でも、怖いな…。早く、太陽、昇らないですかね…。」
 ぼうっと眼下の街を眺めながら呟いた。
 時折強く吹き抜ける風はまだ冷たいが、昨夜に比べて幾分暖かい
ことが夜明けが近いことを教えてくれた。その心地良い冷たさの風
に吹かれながらクロノスはライトスタンドの淡くも鮮やかな蒼の光
と、地平線の淡い光を楽しんでいた。
「なんだか、夜と朝の狭間に、置いてけぼりにされているような、
気分ですね。」
 早く明けないかなぁ。と呟きながら日が昇るのを待っていると、
地平の更に向こう側で強い光が生まれた。それはゆっくりと、それ
でも確実に今いるこの場所を明るく暖めていった。
 その朝焼けの光が眼下の白を朱金に染めていった。それはさなが
ら、白い花の中に紅い花が咲き乱れているようで見ているものを魅
了した。
「うわぁ。紅い波が打ち寄せてるみたいですね。ケルトさんが自慢
するわけです。
 …綺麗。」
 ほんの短い間の幻想的な風景を堪能したクロノスは、満足そうに
部屋に戻っていった。
 部屋の中は暖かく、冷えた体には心地良かった。
 そしてベットにではなく、この部屋の備え付けのものであるらし
い椅子を窓のほうへ運ぶと、少し行儀が悪いが椅子の背の方を向い
て座り、背に体を預けながら目覚めたばかりの街を見つめた。
 この部屋がかなり高い位置にあるためかなにやらミニチュアの街
を見ている気分になりながら、家から人が1人、また
1人と出てく
るのを微笑みながら見つめた。
 そうやって街が完全に目覚め活気付いていく様は、見てみてとて
も楽しいものだった。
 小鳥の囀りと、遠くから聞こえるようにさえ感じる街のざわめき
を思い聞きながらまどろんでいると、悪戯な風が彼の細く長い茶色
の髪を後ろへと玩ぶように流した。
 その髪の動きを感じて閉じていた瞳をそっと開けると膝よりも下、
今は床についてしまっている自分のそれを1房掴んだ。長くしなやか
で痛んだ様子も無い世の女性なら誰しもが憬れるような髪質だった。
 その髪を見て眉をきつく寄せると、椅子から立ち上がり部屋を見回
した。鏡台を探しているのだ。外見云々によっては切るつもりである。
 鏡台は思っていたよりも簡単に見つかった。それは、先程まで彼の
座っていた椅子の前の台がそうであったのだ。
 彼はそれに気付き座っていた椅子を持って鏡台の前に行くと、扉開
きになっている鏡面をそっと開き自分の姿を映した。そこには髪の長
い、丁度少年と青年の中間ほどの姿をした彼が映っていた。
 クロノスはその自分の姿を見てまた眉を寄せると、髪を1房掴み、
引っ張ってみた。もちろん鏡の中の自分も同じ行動をする。
  それを見てこれが間違いなく自分なのだと確信してほっと息をつ
くと、もう少しの間この長さのままでも良いかな? と思い、また
椅子を窓際へと移動させ、外の風景を見ることに没頭し始めた。
 白い町並みを眺めながらあそこは何かな? とか、あの噴水の側
気持ちよさそう。とか取り留めのないことを思いながら太陽の陽気
に温められ、ゆっくりと眠りの中へ落ちていった。

  
























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