蒼き月の逸話
お互いに一頻り笑いあった後、クロノスは再びケルトの上の辺り
に見える月に視線を移した。昔誰かが言っていた月に関する話を思
い出そうとしていたのだ。
記憶を失っているのに思い出そうとするのもなにやらおかしな話
ではあったが、クロノスはどうしてもその話が記憶に残っているよ
うな気がして仕方がなかったのだ。
(どういう話でしたっけ…。)
記憶の中のかなり奥に沈んでいるその話を思い出そうと首を傾げ
ながら考えた。もう少しで思い出せそうなのだ。蒼い月に関する話
が。
急に月を見つめて動かなくなったクロノスを不審に思ってケルト
はそっと彼を呼んだ。
「クロノス…さん?」
「え…? あ、はい?」
ケルトの呼びかけに反応を返して彼を見た。そして月の下にいる
彼を見て、やっと先程まで考えていたことを思い出した。
『蒼き月には魔力が宿り、蒼金龍を目覚めさせるそうだ。再誕…と
いうほうが近いかも知れんな。それと、人でないものを、魅入らせ
る。という逸話もある。
蒼い月に魅入られる者は人間ではない…ということだろう。気をつ
けるんだな。』
誰から聞いたのかまでは思い出せなかったが、それでも話された
ことが、そしてその人物がこれほどに長く話すことを知って、とて
も意外で驚いたのは覚えていた。
(ああ、確かこの話を聞いたときもこんな風に綺麗な満月で、月に
魅入ってましたね…。)
話を聞いたときのことを朧げに思い出しながらそんなことを思っ
ていると、冷たい風が吹いてきた。
「ふ…ふぇっくちゅんっ。」
目の前で返事をしたまま再度黙ってしまったクロノスを心配そう
に見つめていたケルトがくしゃみをした。どうやら冷えてしまった
らしい。クロノスもその事に気付くと立ち上がった。
「寒かったですね。すみません、つき合わせてしまって。中に入り
ましょうか?」
にっこりと笑ってそう促すと部屋の中にケルトと一緒に入って
いった。
部屋の中に入るとやはり外がどれほど寒かったのか痛感させられ
るほどに暖かかった。
「じゃぁ、今日は僕ももう寝ますね。おやすみなさい。ケルトさん。」
ベットに腰を降ろしてそう言うと、ケルトも笑みを浮かべて頷い
て「おやすみなさい。」といって部屋から出て行った。
部屋を出るケルトを見送ってからクロノスは再び外の月を見た。
青白い光を放つ月を見つめながら眠りに落ちる直前まで彼は自分の
ことを考えていた。
一体自分は誰なのだろう。と―
−END−
第一話終了です
これだけにどんなけ時間掛かってるんでしょうね…。
えーと、管理人イラスト書くの遅いんで、
もしかしたら忘れたころに挿絵がつく可能性ありです
それにしてもこの主人公は動かしにくいなぁ。
管理人とは逆の性格だからかも。
これからどうなっていくのかは、お楽しみということで
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