入り口で漫才?
 
 
 
 店の外観のみで物事を判断するわけにはいかないととりあえず
そこに踏み止まったものの、中に入るのは少し、いや、かなり勇
気がいりそうだった。
 だがその火有の不安をよそにボリスとけるとは普通に「大きな店
ですね」などと会話しながら店の中に向かって歩き出したので、ど
うやらこの街では平均的な店であるらしいと安心した火有は
「何立ち止まってるの? 早く入ろうよ、暗くなっちゃう」
 ケルトにそういわれて「応」と答えるとゆっくりとケルトに促さ
れるままに中に入っていって、まず眼に入ってきた服の量と質、
それに内装からここが間違いなく自分にとってもっとも場違いな
店であると思うと同時に、信じるんじゃなかったという特大の後
悔と共に体が回れ右をして店を出る行動をとった。
 その突然の行動に驚いたのはいうまでもなくこの店に案内した
ケルト自身だった。
 とっさにケルトが火有の腕を掴んできたがかなり勢いがあった
のか
2人そろって顔面から店の入り口−そうここはまだ店の入り口
なのだ−で勢いよく転んでしまった。
 もちろんふざけているとかそういうわけではなく、火有の身長
や歩幅にケルトの身長をあわせるとどうしてもこけてしまうこと
になるらしい。つかりは膝をかっくんされてしまったのだ。それ
でもケルトのほうに倒れないように正面に倒れたのはさすがとい
うべきなのか……。
 普段ならばそのようなことはないのだろうが今日は少々いろい
ろなことがありすぎた、というよりも気がついたときから常に普
通ではないことばかりで疲労がたまっているため、たとえケルト
が王族であろうとも、案内してきたのがその王族であろうともや
はり高級店というのはまったく縁がない一般人なのだ。とてもじ
ゃないがすんなりと入ることはできないし、受け入れれるわけで
はない。
「ど、どうしたんですか……?」
 2人そろって正面から転んでしまったのではどうあっても目立つ
し驚く。ボリスは近くで見ていたため後者だったが唖然とした様
子で尋ねてきた。
「驚いて帰ろうとした。」
 端的に自分の心情を答えるとボリスはどのことかと考えてから
店のことだとわかったらしく店内を見渡すと
「確かにこれはすごいですよねー。広いですし」
 そう少々ずれた答えを返してきた。
「いや、その感想もかなり違うから」
 一応とでもいうように突っ込むと、ここには普通の人間はいな
いのかと頭を抱えたくなった。
 立ち上がりながらケルトも一緒に立ち上がらせていると「平均だ
と思ってたんですけど……」と呟いていた。
 それは王族という立場上の普通だという突っ込みはあえて沈黙
で殺した。反論も考えたくないし、何より疲れる。
「まぁ、いいや。とりあえず早く選ぼう」
 完全に立ち上がりもう出て行こうとする気配のない火有に安心
したように小さくため息をつきながらそういうので、火有は少し
間をあけて周囲を見ると
「つっても広いから探すの時間かかるだろ?」
 そう尋ねた。
「うん、だから1度店を一周しようと思ってるんだ。行かなくても
いい場所とかあるしね」
 もちろん一周する必要はないのだが、こうも広くてはすぐに迷
いかねないしある程度場所を知っていたほうが時間の短縮にもな
るのは事実なのでそういったのだ。それでなくてもケルト以外は
全員、この店は始めてである。万が一に備えておくに越したこと
もない。
 火有もボリスもそのケルトの提案に否はないらしく頷いて店内
を見て回るために歩き出したのだった。

  
























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