落っこちた兎
 
 
 
 ケルトの提案をすんなりと受け入れた火有はボリスはどうする
かというように、視線を隣で突然決まったことに対し追いつけな
いでいる青年に向けた。
 このまま共に連れて行ってもいいが、彼自身のことを思えばで
きれば1度城に帰したほうがいいとも言える。とっくに昔にあち
こち連れ歩いておいてどうこう言うべきでもないようなきはしな
くもないが。
「ボリスさん疲れてない? 疲れたならいったん帰るけど、どうす
る?」
 ケルトも同様に心配していたのだろうボリスを気遣うように見
上げながら尋ねられた本人は、ケルトに視線を向けると少しだけ
首をかしげた。
「いいえ、そんなにつらいというわけでもありませんし、それにお
城に行く道の途中にでもあるようでしたらそのまま行ったほうが
効率もいいと思いますから、このまま一緒に行かせてもらいます」
 おそらくこちらのことも考えての言葉なのだろうが、にこりと
笑いながら言う言葉には嘘を感じないので大丈夫だろう。
 しっかりとボリスの顔を見ながら大丈夫と判断した火有は「大丈
夫ならいい」といって、もう1度確認するように一応彼の表情を軽
く盗み見た。
 顔色も悪くはないし、平気でないのならばすでにそう言ってい
るはずだ。彼はそこまで子供でもないし火有も自慢ではないが気
づかないほど鈍くもない。
 そう結論を下すとケルトに視線を向けて促した。服屋にいくに
してもどの道地理に詳しくない火有に決定権は特にないのだか
ら、この場はケルトに任せるべきだと判断したのだ。
 その視線に気がついたのかケルトが2人を見上げるように交互
に見やるとすぐに考え込むように下を向いた。その際あまりにも
上を向いたり下を向いたりしたものだから頭の上にいた刻兎が落
ちかけていたが、火有がそれとなく抑えておいた。
(落ちるな、絶対に)
 後ろやら前やらと落ちかける茶色い毛の刻兎の首を軽くつかむ
ようにして支えながら忠告すべきかと考えた。自分たちの身長差
を考えれば間違いなくこういうことは増えるわけだから、忠告し
ておくに越したことはないかもしれないと判断して口を開こうか
とも思ったが、それは自分にもいえることでもあるのだから、言
う必要性はないだろうし余計なお世話かと思いいわないでおくこ
とにした。この刻兎にしてもここが気に入っているようだし、そ
うそう場所を変えようとはしないだろうし、落ちたら落ちたでそ
のとき考えればいい。
「それじゃぁ、いきましょうか。ちょうど帰る道の途中に服屋もあ
るし、ボリスさんの服も買いましょうか」
 ケルトがそう結論を言うために頭を勢いよくあげてしまい、支
えられていた刻兎は見事に落ちた。
「落ちたな」
「え??」
 地面に落ちた刻兎を片手で拾い上げながら言葉をかけると「次か
らきいつけてやれ」と言葉を付け足してそのまま頭の上におろして
みたが、どうやら落ちたことを根に持っているらしい、ケルトの
髪をこれでもかといわんばかりに引っ張っていた。
「あいたたた!?? ご、ごめん〜」
 髪を引っ張る刻兎に謝るケルトをほほえましげに見ながら、隣
でまったく話を聞いてもらえさなそうだと落ち込むボリスにあき
らめろというように軽く笑ってみせたが、どうやらさらに落ち込
ませてしまったらしい、沈んでしまった。
 そのボリスの反応に困ったように片眉を上げたがそれ以外に変
化はなく、逆に頭の上にいた刻兎が何かを講義するように軽く鳴
いてきたのでそちらの頭も撫でていると、ケルトが背伸びをして
同じように撫でようとしたのだろう手を伸ばしてきたが、身長差
もあって届かずにあきらめて手を下ろすと
「お前達の服も買おうね」
 といってそれに3人と共にいた刻兎も合唱するように鳴いて、
購入が決定されたのだった。

  
























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