甘い香りの記憶
 
 
 
 中を見て火有が思ったことはただ1つ、ここ(・・)()かよ。のみだった。
 目の前に並んだいわゆる『フルコース』の豪華版のような料理
の量に火有は心の底から深刻な思い溜息を零したのだった。
「……なに、この量……。」
 だが、それは隣りに立つケルトも同じだったらしく、呆れを通
り越し、茫然自失となっている。その呟きから普段からこの量と
いうわけではないらしいということが見て取れた。
 火有はケルトの言葉に少し困惑した視線を向けた。
「いつもこうじゃねーの?」
「普段はこの3分の1以下です。」
 火有からの問いに即答で答えると、諦めたように溜息を1つ零
してから、テーブルの席へと向かって行ったのだった。
 ケルトはいわゆる上座から右の2つ目の席に座ると左手のほう
に火有を呼んだ。其処に座れという意味らしい。
 彼のケルトの催促に少し苦笑しながらその場に向かい座った。
 ケルトの左隣に腰掛けた火有は内心、心底ほっとした気持ちで
一杯だった。
(良かった、スコーンか。…………て言うか他の料理はなんだ? 
後出くわされんの? もしかして……。
)
 目の前に出されたスコーンに手を伸ばすと、焼き立て特有の熱
が指に伝わり一瞬反射的に指を引いたが、すぐに1つ手にとった。
「あっつっ! 結構まだ熱いな。」
 手に持ったまではいいがまだ熱く少しの間両手の間を転がして
冷ましながらいった。
 ある程度冷ますと、微かにかぼちゃの香りのするそれにかぼちゃ
のスコーンかと納得すると、火有はそれに手近にある何かのジャ
ムに手を伸ばした。そしてそのジャムをスプーンで1掬いすると、
手に持っているそれに塗りつけた。
 そのとき指に少しついたそれを舐めとると、口の中に林檎の甘
味と酸味が広がり、それが林檎ジャムであることを彼に伝えた。
こっひつへれもほいひいれふひょ(こっち付けても美味しいですよ)
 口の周りに生クリームをつけながら半立て状の生クリームを指
差していった。
 火有は口の回りに生クリームをつけ、なにやら白い髭でも映え
たような状態のケルトを見て呆れ気味に1つ溜息をつくと、片手
にスコーンを持ったままもう片方の手にハンカチを持ち、彼を自
分の方へと向かせ口の周りを綺麗に拭き取っていった。
「ふぐ!? な、何するんですか!??」
 突然の火有の行動にけるとは顔をその手から逃げるように動か
しそう講義したが、彼の方に聞く耳はないらしく、彼の口の回り
を摘むようにして生クリームを拭っていった。
「お前なぁ、口の回りに生クリームつけたまんまにすんなよな。そ
れと口の中に物入れたまんましゃべんな! 行儀悪い。」
 あきらかに小さい子供に対するように言うと、完全に拭き終わっ
てから自分の手に持っているスコーンに噛り付いた。
 口の中に林檎の甘味と酸味が広がり次いでかぼちゃの微かな甘
味が広がって美味しかった。
「あの、美味しいですか?」
「ん? うまいぞ。」
 心配そうに尋ねてくるケルトに火有はすぐに即答すると、次の
スコーンに手を伸ばした。
 その答えを聞いて安心したのかケルトも別のスコーンを取り、
それに少し離れた場所にあった琥珀色の蜂蜜の入ったビンを手元
に寄せたっぷりと塗りつけたのだった。
「……そんなにつけんのか?」
 隣りでたっぷりと蜂蜜をかけてそれをほおばるケルトを少し驚
いた様子で見詰めながら尋ねた。
 一方聞かれた方であるケルトは少し首を傾げて口の中のスコー
ンを飲み込んだ。
「はい。大体これくらいつけるでしょ?」
 首を傾げつつ尋ねたことに答えながら、逆に聞いてくるケルト
に火有はこめかみの辺りを押さえた。なんだかまともに受け答え
するのが馬鹿らしく感じ、手に持ったスコーンに先程ケルトの示
した生クリームを軽くつけて噛り付いた。
「ヴ……。甘ぇ……。」
 口に入れた瞬間に広がった生クリームの甘味に眉をきつく顰め
てそう呟いた。ケルトはそんに火有の言葉にびっくりしたように
見つめると
「甘いの嫌いでした?」
 と尋ねた。
 それに対し火有は
「嫌いって訳じゃないけど、好きっつー訳でもねーな。苦手なんだ
よ。」
 とバツが悪そうに答えたのだった。
 ケルトはその答えに少し複雑そうに表情を歪めると「辛いものが
好きですか?」と聞いてきた。火有はそれに少し苦笑して「程々が好
きだな。」と答えたのだった。

  
























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