騒がしい朝
 
 
 
 眠りに落ちてから数十分もした頃、部屋の外でパタパタと小さな
走る音がし、次いで勢いよく部屋の戸の開く音がした。
「火有さん! 起きてください! 朝ですよ!!」
 戸を開けるなりそう叫んで呼んできたケルトの声に驚いて飛び起
きるような形になった火有は周りを見渡し、自分が飛び起きる原因
となった少年をその視界に留めて深い溜息をついた。
「なんだ、ケルトか。脅かすなよ……。どうしたんだ一体……?」
 どんなことでも原因が解かり自分の身に危害が無いと解かれば力
が抜けるもので、火有は力なく、起こした体を前のめりに突っ伏し
ながら尋ねた。
 ケルトのほうも流石に寝ていた人間を叩き起こす形になってしまっ
たことを気にしているのか、バツが悪そうに頬を掻きながら
「すみません、火有さん。実は朝食を食べた後で城下を案内しよう
と思ってそれで……。」
「早く俺に話そうと思ってこんな起こし方になったんだな?」
「ぅ……。はい。」
 ケルトの説明に苦笑しながらつっこむと、彼はまるで大きな飴で
も飲み込んだような表情をした。どうやら図星らしい。
 かなりバツが悪そうにあちこちを見ているケルトを見て、なんと
なく微笑ましく感じ軽く噴出してしまった。そしてそれだけに留ま
らせる事ができず、徐々に大きく、最後には爆笑となったのだった。
 急に噴出したと思ったら最後には爆笑しだした火有を最初その理
由がわからずに見ていたケルトだが、すぐに先ほどの自分の反応だ
と気づき顔を真赤にすると
「火有さん笑わなくても良いでしょう!!」
 そう怒鳴ったのだった。それが更に火有の爆笑を止まらなくする
とも気付かずに。
 一方火有もケルトに怒鳴られどうにか笑うのを止めようとしたが、
どうやら笑いのつぼに嵌ってしまったらしくなかなか止まらなかっ
た。
「あ、あは……は、ひぃ。わ、わりぃ、ケルト。はは。あんまりにも、
可愛い反応するもん、くっくっ。だから……はぁ、はは……。と、
とまんねぇ……。」
 腹を抱え苦しそうに笑いながら言う火有の目には笑いすぎたため
か、涙が浮かんでいた。
 一向に笑うのを止める気配を見せない火有に更に不服そうに頬を
膨らませ、いい加減に笑うのやめてください。というとやっと火有
も笑うのをやめた。
 そしてケルトのほうへと体を起こし向きを変えると、申し訳なさ
そうに微笑んだ。
「わりぃ、ケルト。ちょっと笑いすぎたな。ほら、外へ行くんだろ? 
早く飯喰いに行こうぜ?」
 そういってえるとの頭にその大きな手をぽんと置いて少々手荒く
撫でたのだった。
 ケルトはまた彼に子供扱いされた事にちょっと不満を感じつつ火
有と共に部屋を出て行った。
 隣りを何を話すでもなく黙々と歩くケルトを見て彼は完全にこの
少年が臍を曲げてしまっているということを見抜いた。本人自慢に
はならなさそうだが、こういう勘はいいのだ。
 子供扱いされたことを根に持っているのか、それとも笑いすぎた
ためか、おそらくはそのどちらか、もしくは両方だろうということ
はわかる火有だが、だからといって他に態度の変えようも無い身に
は、どうしようもないのが現実だった。
「ケルト、機嫌治せ。」
 いい加減沈黙に耐えられなくなった火有がやや困り気味にケルト
にいった。
 だが、その言葉にもケルトは沈黙で答えるばかりで余計に火有を
困惑させただけだった。
 完全にお手上げ状態になった火有は深い溜息をついて、このケル
トの機嫌を治す方法を考えるのに没頭しはじめたのだった。
(どうせいって言うんだ。これだから子供の扱いは苦手なんだよ。)
 昔から子供の扱いだけは不得手だった火有は隣りで頬をめい一杯
脹らませたケルトに少し苦笑してみながらまた小さく溜息をついた。
 子供の扱いはどうすべきかと完全な堂々巡りの考えをしながら横
にいるケルトを何度も盗み見た。
 完璧といっていいほどに見事なまでに臍を曲げきっているケルト
は火有方を一切見ようとせず明後日の方を向き続けていた。だがそ
のために正面をまったく見ていなかったケルトは柱と衝突しかけて
しまった。
 火有はそのことに気付き反射的にケルトを脇に抱えるようにして
持ち上げその柱を回避した。
「ったく、ちゃんと前見て歩けよな。危ないだろ。」
 脇に抱えるようにして持ち上げたケルトに呆れたような口調で言
うと、そのまま大股で数歩進んで彼を降ろしたのだった。
「ふぅ。そんなに子供扱いされるのが嫌か?」
 もうすでに降参という口調でケルトに尋ねると、彼は小さくそう
いう訳じゃ……。と呟いた。火有にも無論その声は聞こえたが、そ
れだけでは余計に困るだけだった。
「じゃぁ何が理由なんだよ。笑ったことか?」
「それもあります。」
 今度ははっきりと言い切るケルトに火有は首をかしげた。『も』
ということはそれ以外にも理由があるのだろうが、それが何かわか
らなかったのだ。
「もって事は他にもあんのか? 理由が。」
 首を傾げケルトに尋ねた。
 その間、さも当り前とでもいうように目の前に迫った柱を見るこ
ともなく避け、ケルトもその時にきっちりと庇っているのは流石と
いうべきなのかもしれない。
 だが、ケルトは火有の問いに照れたような困ったような、それで
いて悔しいという感情を滲ませ複雑に交じり合ったような表情で視
線を彷徨わせただけだった。
 火有はそれに微苦笑を浮かべ「だんまりかい。」といってそれ以上
の追求をしなかった。
 そして、1つの大きな扉の前で止まった。どうやら辿り着いたらし
い。ケルトはその扉を片手で押し開けると中へと火有と共に入っていっ
たのだった。

  
























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