朝日と口笛の音色
 
 
 
 寝起きでまだ微かにぼやけた体にはちょうどよい冷たさの風が吹
いた。
 昨日ケルトに怒られたばかりだが、また、バルコニーの柵の上に
座ると外に足を放り出した。
 まだ日の昇る気配も無い薄暗い空を見上げながら火有はのんきに
口笛を吹いていた。その曲は段丘をつけながら軽やかなテンポで流
れていった。
 その曲は彼の即興のものらしく、誰も聞いたことのないメロディー
が誰の耳に届くことも無く響いては消えていった。
 昨日の昼のものに比べてずっと冷たい風が口笛の曲と赤い髪をそっ
と揺らした。
 気持ちよさそうに口笛を吹いていると、周囲が徐々に明るくなり、
眼下の景色が鮮明になってきた。そして曲が終わったのか、高い口
笛の音を立てると子供のように柵の外へ投げ出した足をばたつかせ
た。
「おー。すっげー! まじで綺麗じゃん♪
 昼もいーけど、こうゆうのも良いな。」
 淡い光に照らされた街を眺めながら日が昇るのを待ちながら、先
程まで吹いていた曲を吹きつづけた。
 日が昇る前でもこれほど綺麗なら、夜明けは更に綺麗だろうと踏
んでのことだった。
 そうやって待っていると日が昇り始め、その朱金の光が純白の街
を染めていった。その鮮やかな色の変化に思わず口笛を止めて見蕩
れていると、完全に日が昇り切り幻想の時間が終わっていった。
 火有はその最後の光が消えるまで見つめていたが、昇りきったの
を見届けると、柵を降りて部屋へと戻っていった。
 部屋の中はやはり外とは違い暖かく太陽の光で温められていたと
は言え、冷えた体には心地良く再度彼の眠気を誘ったが、彼はすぐ
に眠ろうとはせず、昨日ケルトに放り投げて渡した本がどこにある
か探した。
 それは簡単に見つかり、ベットの近くの台に置かれていた。どう
やら起きてすぐに読めるようにとの配慮らしい。
 彼らしいその行動に軽く笑ってからその本を取ると、壁に背を預
けるような形でベットに腰を掛けて本を開いた。
 そしてその本の中で昨日途中まで読んでいたページを開くと、そ
の場所から目を通し始めた。元々本などは読みきらなくては気がす
まない性分なのだ。
 そして小1時間ほどでその本を読み終えると、赤い髪の端が目に
入り昨日のケルトの言葉が思い出され、近くの鏡が無いかと探し出
した。髪と瞳に色が本当に赤に変わってしまっているのか気になっ
たのだ。
 だが、この部屋には鏡台などはなく、その代わりとでも言うよう
に壁に小さな鏡が申し訳程度に掛けられているのみだった。
 火有はそれに対し、どうせ瞳の色を確かめるのみだからとその壁
に掛けられた鏡に向かった。
 そして鏡に向き合うような形でそれに自分の顔を映した。その申
し訳程度の壁掛け鏡は火有の顔をやっと映せると言うほどに小さな
ものではあったが、彼の見たいものを映すには十分な大きさだった。
「あー、マジであけー。髪も目も見事に真赤。
 ここ来る前までは黒かったのになー。何でこんな色になっちまっ
たんだ? …………まるで兎の眼みてぇじゃん……。」
 鏡に映った自分の顔の紅い目を見て溜息交じりに愚痴を零した。
 彼は確かにこんな極端な色ではなかったはずだった。火有の言う
通り黒い髪と瞳を元々はしていたはずなのだ。
 火有はしきりに自分の体に起こった異変に首を傾げながらその鏡
の前を離れ、ベットに向かうとそこにごろりと寝転んだ。
 そうやって仰向けに寝転がりながら頭の後ろで両手を組んで何を
するでもなく天井を見ていたが、次第に眠気に包まれ、ゆっくりと
眠りに落ちていった。

  
























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