記憶と現実の矛盾
 
 
 
第二夜:喪失者の1日
 
 次の日火有は軽い頭痛と共に目を覚ました。どうやら寝すぎたら
しい。
「うー、いってぇ。寝すぎて頭が痛くなるなんて、何年ぶりだ?」
 枕に突っ伏した状態でうぅ。と唸りながら呟いた。風邪をひいた
時でもここまで酷くはなかった。と思いながら改めて体を持ち上げ
肘で体を支えるような体勢になった。
 気持ちの良い目覚めとは流石に言えなかったが、それでも意識は
頭痛のおかげではっきりとしていた。
「あの声、誰の声だっけなー? 俺が知ってるっつー事はこの世界
じゃなくて、確実に俺がいた方の世界の人間つーことだよなぁ。で
も、誰だ? マジで。」
 昨日気付いた−と言うか思い出した−声のことを思い出しながら
そう呟いた。
(確かに聞いたことのある声だった。それもほぼ毎日1回は。
……つー事は学校か。先公じゃねーな、授業によって聞かねーのもい
るし。生徒だ。それも
同年(ため)。………………………………。)
「ここまで思い出せてなんで次が出てこね−わけ?」
 順調に思い出せていたにもかかわらず最後のところで名前だけ出
てこず火有は頭を抱え込んだ。外見までは思い出せるのだ。腰より
長い黒髪に、冷めた誰よりも厳しい光の宿る、左右で僅かに色の違
う瞳、眼鏡を掛けた実際の歳よりもかなり上に見える、傍目にも解
かるほどの整った顔立ち、そして周りから浮いた口調と性格の人物。
はっきり言ってしまえば火有とは真逆といえる存在だった。
「誰だったかなぁ?」
 仰向けに寝返って手を上に伸ばしながら考えていた。もう少しで
思い出せそうなだけに余計にもどかしく感じた。
 伸ばした腕を何とはなしに後ろ(・・)に降ろした。言うまでもなく後ろは
壁なので、ガスッとなんともいえない痛い音を立ててぶつけた。
「…………………………っ!! 〜〜ぃっつう〜。」
 壁でぶつけてしまった両手を抱えるようにして蹲った。相当痛い
らしい。
 低い涙声を出して両手を抱えたまま、彼の目には痛みからか涙が
浮かんでいる。
「あ、思い出した。ミズナシだ。下の名前は覚えてねーけど、確か
学校で同じ名前だってからかわれた事があったから俺と同じかぁ。
しばらく思い出せねーかも。」
 壁にぶつけた衝撃でかやっと出てきた名前に火有は痛みも忘れて
小さくガッツポーズをした。
(にしてもなんでここでミズナシの声が聞こえたんだ? ケルトのや
つは他に俺見てーなやつがいるなんて言ってね−し。やっぱ空耳か?
でも、それにしちゃやけにリアルだったな。
)
 思い出したことでさらに出てきた疑問に頭を抱えることになった。
 暫くそのままで考え込んでいると、はたと気付いた。部屋が暗い。
いや、部屋ではなく、外が暗いのだと気づき火有は少し苦笑した。
「夜明け前に起きたのなんて何年振りだろうな。」
 そう呟くとそっと体を起こした。
 そしてベットから降りると、昨日も出たバルコニーへと足を運んだ。

  
























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