人騒がせな青年
 
 
 

 そしてしばらくしてベッドに寝ていても眠る気になどなれず困っ
たように周りを見渡すと、見渡しのいいバルコニーがあるのに気が
付きそちらに向かうと、昼を少し過ぎたくらいの時間なのか、日が
高くなっていた。
 そこは風が心地良かったので柵に登って腰を降ろすとやはり自分
の記憶にある景色とは全く違う景色が広がっていた。自分の知って
いる景色とは違うものでも白くきらきらと輝く様はなかなかに綺麗
なものだった。
 記憶の1部しか残っていないというのは普通辛いもののように感
じるのだが、根本的に楽観的な性格のため本人は
RPGみたいだ。と
純粋に喜んでいたのだった。
「……ん? なんか聞こえたような……? 気のせいか?」
そのときに何か小さな声が聞こえたような気がしたが、空耳かと思い聞
き流した。
 そんな風にのんびりと風と風景を楽しんでいると後ろから
「うぎゃーっ!! どこ座ってんですかー!?」
 という叫び声が聞こえてきたのだが、火有はそのことを気にして
いるような余裕はなかった。何故なら、その声に驚いて落ちてしまっ
たから。
「うっわ! 落ちる落ちる!! マジで落ちる!!!」
 そう叫びながらなんとか体を上に上げようとしている火有を見て
ケルトのほうもさらに焦っていた。まさか自分の声でそんな事にな
るとは思っていなかったのだ。
 そして、もっていたトレイを手近な台の上に置き、急いで彼のも
とに行って彼の体を上に引き上げたのだった。
「ぜ……ぜぃ……。い、いきなり声を……あげんな……よな…………。」
 落ちそうになった体をなんとかバルコニーの上に上げてそう抗議
の声を上げたが、ケルトのほうもそのことに対して息を荒げたまま
彼を恨めしそうに睨んで
「以前……楽天的な方の……行動は……想像を越える……、とっ……
聞いていました……がっ……ほんっとうですね!」
 そう怒鳴ってきた。心なしか涙目になっている。
 だが、火有のほうもそう言われては素直に謝る気も失せるという
ものできっと睨みつけると
「わぁるかったなっ! 想・像・外で!! っつーか誰だよ! んな
こといったの!!」
 そう言い返した。負けず嫌いらしい。
 だがケルトの方はそんな睨みなどどこ吹く風といわんばかりの表
情で明後日の方向を向いてトレイの置いてある台に向かうと
「誰でしたっけねー。」
 そうトレイを持って呟いたのだった。
 彼のその言葉に呆れたような表情になると溜め息混じりに
「なんだよそれ…。」
 と、こっそり呟いたのだった。最もケルトには届かなかったよう
だが……。
「おかゆ、持ってきたんですけど、食べます?」
 ちょっと不安げに尋ねて来た。心配しているのがよくわかる。
柔らかいおかゆの湯気を見て「食べる。」と答えて受け取ると、パ
クパクと食べていった。僅かな塩味が食欲をそそった。 
 ケルトはそれを見てほっとした表情をしてから、お茶をいれて渡
した。火有もそれを受け取りこくりと一気に飲み干した。
「うまかった。サンキュな。」
「あ、いえ…。///
 素直な言葉に僅かに顔を赤くしてケルトは俯きながらそう答えた。
その年相応な反応を軽く笑いながら見ていたがふと外を見ると
「なぁ、さっき外見ててわかったんだけどさぁ。」
 とケルトに話しかけた。
 ケルトのほうも急に話しかけられた事に驚きながらも、その先を
無言で促した。彼もそれに頷くと一言だけ告げた。
「ここ、俺が住んでた世界じゃないわ。」
「そうなんですか。……って、はぁ!?」
 あまりにもさらりと告げられた所為で思わず聞き流してしまった
が、すぐに事の重大さに気付いて素っ頓狂な声を上げた。
 火有のほうはケルトの声に驚いたようにしていた。もっとも手は
近くの台においてあった本に向けられていたが。
「いや、だからここ、俺が住んでた世界じゃねぇっつったんだけど…。」
 台の上にあった本を手元に引き寄せながら改めてそう告げた。
 ケルトはその彼の言葉に完全に信じられないといった表情で見て
いた。
「世界…ですか? 国、じゃなくて?」
「ああ。」
 困惑しきった声で紡がれた言葉にも即答した。間違いないという
確信があった。それゆえの即答だった。
 その後なんとも言えない沈黙が流れていったが双方共話す言葉が
思いつかず、火有は本をケルトは彼を見つづけた。だが、さすがに
なにも言わずに見られているのには抵抗があるのか本から目を離し
「俺の顔なんかついてる?」 と、単刀直入に尋ねると、ケルトは焦ったよ
うに顔を真っ赤に染めてあっちこっちのほうを見ながら「え、あ…、うー。な
どと言葉になってない声を発していた。

  
























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