常識外
 
 
 
 いつの間にか決まってしまったことにまだ落ち込み気味のボリ
スに何を言うべきかと思いながら、まだ頭の上の刻兎と格闘中の
ケルトを何とはなしに見つめてた。
 歩きながら器用なものだと思うがこっちはツチヅカがどうにか
するだろうとおおよその予測を立てて、実際に彼の声が刻兎をな
だめるのを以前よりもはっきりと聞き取りながらもう
1人の青年の
声を聞こうと神経を研ぎ澄ませてみたが、ちょっとだけ、本当に
ちょっとだけ、後悔した。
『まぁ、そんなパジャマみたいな格好でこれから歩き続けるわけ
にゃかんだろ』
(とどめさしてどうする……)
 相手に聞こえることなどないから心の中で突っ込む。これはあ
くまで一方通行でしかないのだ、連絡のとりようがないから。
 そう思って隣で並んで歩くボリスを見やればまだ落ち込んでい
る。これは本格的に何かいわないとさらに落ち込みかねない。
「ボリス殿、服のことならばあまり気にせぬほうがよいと思う。ど
の道これから記憶を探すためにこの街から出て行かねばならぬの
だし、ならばせめて旅人を装えるような服を買っておくのは必要
最低限のことだ。
 ケルト殿からいただいた服では目立つしな」
 そう声をかけてボリスを一様浮上させようとしてみると、それ
が功をそうしたのか落ち込み気味だった表情を改めて神巫に笑み
を向けた。
「そうですね、そう思います」
「時には居直り、というのも必要ということだ」
 ボリスの言葉に冗談めかして無表情にいうと、ボリスはその言
葉に意外そうに神巫の顔を凝視した。
 その表情にどうかしたかというように視線を向けたがそれに反
応が返ってくることはなく、やはりまだ体調が万全ではないのに
無茶をしているのではないかと心配になりひょいと額を隠す前髪
を上げると、熱を確認するようにこつりと自分の額を当ててみ
た。
「……………………………………………………………………………
(思考停止)……………………………………………………………
…………………。
 っ!!! うぅわぁあああぁぁあっ!!!???!」
 しばらく神巫の突然の行動にそのままの体勢で思考停止を起こ
していたボリスだが神巫が、「ふむ」と声を漏らしたのと同時に現実
に戻ってきたらしく一気にその場から奇声−悲鳴?−を上げなが
ら飛びのいた。もちろん神巫はそのときすでに熱の有無を確認し
た後ですでに体を離していたが、そんなことにまで頭を回す余裕
は今のボリスにはない。
「…………? どうなされたのだ? ボリス殿」
 急に奇声を上げながら自分から勢いよく離れたボリスをまるで
珍獣か何かを見るように珍しげな視線で見つめながら、いかにも
普通のことをしました。というような様子の神巫にケルトも少し
ばかりあきれ気味だった。
「あのさぁ、神巫さん、熱測ったんだよね?
 でもさ、普通手でやらない?」
 ことの一部始終を見ていたケルトが半ばあきれ気味に尋ねてき
たが、その問題を起こした当の本人は意味が解らないというよう
に顎に手を当て首をかしげてから、ああ、というように手をぽん
と叩いた。
「大人とは言えぬでも成人間近の男子に対しるすようなことではな
かったな。すまぬ、配慮がたらなんだ」
 そう謝ると、まだどこか顔の赤いままのボリスが
「いえ……、過剰に反応した僕も悪いですし、急なことで反応がつ
いていかなかっただけですし……、というかやっぱり神巫さんほ
どの美形ともなると間近で顔を見るのは心臓に悪いという
か……、とにかく僕が驚いただけなので気にしないでください」
 そういってきた。といっても半分近くはもごもごと口の中で呟
かれてケルトにも神巫にも聞こえなかったが、とりあえず大丈夫
らしいということで神巫はほっとしたような表情になってケルト
に「服屋はもうすぐなのか?」と尋ねていた。
「もうすぐだよ。ほらあそこ」
 そのケルトの指差したほうをみて、神巫は本気で今すぐここか
ら逃げ出したい気分になった。
 ちなみにそういって示された店は、明らかに高級店だった言う
ことをここに明記しておこう。

  
























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