高級店
 
 
 
 店の外観のみで物事を判断するわけにはいかないととりあえず
そこに踏み止まったものの、中に入るのは少し、いや、かなり勇
気がいりそうだった。
 予想が当たっていたらと言う恐怖は意外と大きいし、どうあっ
ても普通の店と思うには、この店は大きすぎる。
「何立ち止まってるの? 早く入ろうよ、暗くなっちゃう」
 ケルトにそういわれいつまでも入るのを躊躇うわけにもいか
ず、ゆっくりとケルトに促されるままに中に入っていくと、まず
眼に入ってきた服の量と質、それに内装からここが間違いなく自
分にとってもっとも場違いな店であると頭が判断するのとほぼ同
時に、もしくはそれよりも早く体が回れ右をして店を出る行動を
とった。
 その突然の行動に驚いたのはいうまでもなくこの店に案内した
ケルト自身だった。
 とっさにケルトが神巫の服の袖を掴んできたがそれにはあえて
反応せずに神巫は外に体と視線を向けたままになって何もいわな
かった。
 もちろんいじめとかそういうのではなく今現在において目の前
の状況を完全に受け入れるだけの精神的余裕がないのだ。
 普段ならばそのようなことはないのだろうが、今日は少々いろ
いろなことがありすぎた、というよりも気がついたときから常に
普通ではないことばかりで疲労がたまっているため、たとえケル
トが王族であろうとも、案内してきたのがその王族であろうとも
やはり高級店というのはまったく縁がない一般人なのだ。とても
じゃないがすんなりと入ることはできないし、受け入れれるわけ
ではない。
「な、何で出てこうとするんですか!!!」
 とっさなのだろう、服の袖を掴みこれ以上動けないように体重
をかけながらいうケルトに、覚悟を決めてゆっくりとなるべく店
内が眼に入らないようにケルトとの身長差の都合上当たり前なの
だが下を見ながら振り向くと
「すまん。思わず体が動いてしまった」
 そう殆ど聞こえないような小さな声で答えたのだった。
 自分でも馬鹿な答えだとは思うが本当に体が考えるよりも先に
反射的に動いてしまったのでほかに言いようもない。
「お、思わずって何ー?」
 神巫の中途半端といえば中途半端な答えにそう不思議そうな表
情で、それでも半ば項垂れるようにがくりと頭を下に下げながら
言うケルトに申し訳なさそうに完全に向き直ると
「本当にすまない。普段まったく縁のない店だったものだから……」
 改めて説明不足のところを補いながらそう答えると、ケルトも
納得したのかそれでも「平均だと思ってたんですけど……」と呟いて
いた。
 それは王族という立場上の普通だという突っ込みはあえて沈黙
で殺した。
「まぁ、いいや。とりあえず早く選ぼう」
 完全に向き直りもう出て行こうとする気配のない神巫に安心し
たように小さくため息をつきながらそういうので、神巫は少し間
をあけて周囲を見ると
「なら1度店を一周したほうがいいのでは? 婦人服などは私たち
には縁のない場所でもあるし、そうしたほうが自分に合った服も
探しやすい」
 そう提案した。
 もちろん一周する必要はないのだが、こうも広くてはすぐに迷
いかねないしある程度場所を知っていたほうが時間の短縮にもな
るのは事実なのでそういったのだ。それでなくてもケルト以外は
全員、この店は始めてである。万が一に備えておくに越したこと
もない。
「まあ、そうですね。僕以外初めてだし……」
 ケルトもその神巫の提案に素直に頷くと店内を見て回るために
歩き出したのだった。

  
























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