礼の代わり
 
 
 
 龍の神は誰なのだろうかと首を傾げながら後ろに佇む龍の銅像
を見やってから、軽く溜息をつくと頭を撫でていた兎に視線を向
けた。
「そろそろ帰らねばな」
 そろそろ帰らないとケルト達も心配するだろうと思ったのだ。
それにこの兎が逃げるのを追うためとはいえまともに、というよ
りも一言も説明せずに走って来てしまったのだから、確実に怒っ
ているだろうと考えついでに追って来なかったのはおそらくこの
兎の飼い主が来たか、
残り(・・)2人(・・)が移動できない状況にある所為だ
ろう
と軽く予想したのだった。
「お前も一緒に帰ろうか」
 そういうと兎は神巫の目をしっかりと見てからこくりと頷いた
ので、そっと抱き上げると左肩に乗せてケルトの気配を探しなが
ら記憶でたどれる限りの来た道をたどり歩いていった。
 だがここで1番の問題になるのはやはり、ここに来るまでの間
ほとんど場所もわからずに走ってきていると言うことだった。
「まぁ、彼の君らのいる場所は大体わかるし、大丈夫だろう」
 僅かな不安をそういって拭い去ると、確かな足取りでケルトと
ボリスの気配のより強く感じる方向へと歩いていった。
(それにしても、ずいぶんと気配に鋭敏になったものだ。もともと
鋭いほうではあったと思うが、この世界に来てから更に敏感に
なったような気がする
)
 自分の中にある変化をそう結論付けると、まだ変化するのだろ
うな。とそう確信に近い予想を立てたのだった。
 そして5度目の角を曲がったところでケルト達の姿を肉眼で確
認できるところまでやってきて、そこで見知らぬ青年が2人に何
かを話しているのが見えて彼が飼い主だろうかと思い更に近づく
と、向こうもボリスが神巫に気づきこちらを見てきた。その腕に
は何故か灰色がかった黒目の兎が抱かれていた。
(…………買ったのか?)
「神巫君」
 神巫の姿を確認したらしいボリスが沿う神巫を呼ぶと、その声
に反応してケルトもこちらを見てきた。
 それにあわせるようにして近づいた。
「すまぬ。勝手に行動して」
 ケルトが何かを言いたげな眼をしていたのですぐにそう謝ると
小さく「いえ……」と呟いて肩に乗る兎に視線を向けた。
「その仔が逃げた最後の兎?」
 頭の上に茶色の毛に紫の眼の兎を乗せながら尋ねてくるので、
頷いて答えると2人の後ろに立つ青年に視線を向けた。
「貴殿が飼い主か?」
「はい。あの、刻兎達を捕まえてくださりありがとうございまし
た。
 あの、その服はもしかしてその仔を捕まえるときに……?」
 神巫の問いにすぐに反応を返すと頭を下げてきたが、その際に
服のズボンや服の端がまだ濡れていることに気づいたのか申し訳
なさそうに顔を上げて尋ねてきたので、それにどう答えるべきか
と言いよどんでいるとそれを答えと判断したのか、青年は更に頭
を下げると
「すみません! その服は弁償させていただき……」
「いや、いい。
 もともと私からしても借り物…………」
「あげたものだよ」
「貰ったものなので気にされる必要はない」
 すぐに謝りいう青年の言葉を遮るように言うが、すぐに横でケ
ルトが訂正するのでそれに応じて言い換えてからそういうも、ど
こかまだ納得していない相手の反応に困ったように眉を寄せると
肩に乗せていた刻兎−多分これもそうだろう−が頬を軽く引っか
くように撫でてきた。
「ん?」
「きゅうきゅう」
 何かを求めるような声にしばらく考えると青年に視線を向けて
「なら……」と口を開いた。
「服の代わりにこの仔を頂いてもよいか? なんとなく、愛着が
わいたので」
 この仔と示した刻兎を見て青年は少し驚いたような表情になっ
たがすぐに笑みになると
「かまいませんよ。私が雇われてる店にはその刻兎用の服も置い
てますのでよければ見にいらしてください」
 そういってきたので「ならこれで」といって嬉しげに首に擦り
寄る刻兎を撫でて青年と別れた。

  
























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