精霊のお礼
 
 
 
 座ったことで体勢が安定したということもあり少し背を伸ばす
と膝の上に兎をおろした。
 膝の上におろされた兎は足元を確認するように前脚−?−で膝
を叩くと、特に安定のいい場所に落ち着き体の水滴を振り払うよ
うに体をふるった。
「!? ああ、濡れているんだな。
 ほら」
 急に飛んできた水滴に驚きながらもすぐに状況に気づいた神巫
はそういうと、「確か……」と呟きながらポケットに入っていたハ
ンカチを取り出し濡れていないのを確認してから広げると、膝の
上でまだ濡れているのが気になるのか体をふろうとする兎の上に
掛けて極力傷つけないように気をつけながらそっと拭いた。
 するとその兎は気持ちが良いのか抵抗もせずにされるがままに
なっていたので、そのままの調子でゆっくりと拭いていくと、白
い毛の夢寐の辺りに青い光が反射するのが見え何かと思いそっと
手をやると、青い石がまるで体に埋め込まれでもしたようにそこ
にあり煌いていた。
「何だ? これは」
 あまりにも不自然な場所にあるその意思に柳眉を寄せながら指
で撫でてみるとかなり嫌そうな仕草で避けられてしまった。
 その仕草にどうやら触られたくない場所であるらしいと解った
神巫は軽く苦笑すると「すまない」と謝り手を引いて、その宝石
に触れないように注意しながら体を拭くのを再開した。
 そして大体乾いたところでふと麻に水をやった花の場所に目を
やると、そこには元気に花を空に上げて誇らしげに咲き誇ってい
た。
 その様子に安心するとそっと手を伸ばすと、触れるか触れない
かというところで小さな薄紅の髪で透明な羽根を持った少女が現
れた。
「え……?」
 急に現れた少女に驚いて思わず手を引きそうになったが、その
手を追うように少女の小さな手が伸ばされたのでゆっくりとぎり
ぎりに触れるか触れないかというところまで近づけた。
 おそらく周りには花に手を伸ばすのをためらう不思議な人間に
見えるのだろうな。と他人事のように思う自分がいて、相手の正
体も判らないくせによく思うと自嘲した。
 そう思う間にも少女の小さな手は神巫の手に触れられて、そこ
から不思議な熱が感じられて「ああ、
精霊(・・)にも体温はあるのだな」
どこか必要のないことを思う自分がいた。

『水をありがとう。
 赤い髪の青年と、茶色の髪の少年にも私がお礼を言っていたと
伝えて。龍の神に伝えれば伝えてくれるわ』
 少女はそういって神巫の指の先に小さな唇を当てるとすっと消
えていった。
 神巫はあまりにも急なことに眼を瞬かせていたが、膝の上にい
る兎が不思議そうに「キュウ」と泣いたのですぐに意識をそちらに
向けると頭を軽く撫でた。
「ありがとうか。それは私の台詞だ。
 彼らの存在を明確にしてくれてありがとう。」
 頭を撫でる手に気持ちよさそうに擦り寄る兎に笑みを向けなが
ら、隣に咲く小さな花にそういうと青い空を見上げた。
(やはり、彼の君らも来ていたのか)
 誰となく心の中でそういうと、空とどうかしそうなほどに鮮や
かな蒼い龍が幻の泣き声を轟かせた。
「…………………………ところで。龍の神とは、誰だ?」
 最後の疑問は後々ケルトに聞くことになりそうである。

  
























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