兎追い
 
 
 
 後ろから聞こえていたケルトの呼ぶ声も聞こえなくなってきた
ところで小さな白兎の姿を見つけることができた。人ごみの中を
掻き分けながら走っているので頻繁に他人と衝突してしまい、そ
のたびに兎の姿を見失ったりしていたがそれでも追いかけること
ができたのは兎の気配が微かにだが判るからだが、それもそろそ
ろ怪しくなってきていた。
(小さすぎて踏み潰さなければいいのだが…………。いや、その
前に踏み潰されないかの方が心配だな……)
 先ほど捕まえていたほかの兎の大きさを思い浮かべてずいぶん
と現実味のある心配が頭をよぎったが、多分大丈夫だろうと理由
のない確信もあった。
「普通の兎ではなさそうだな。
 ……っと、申し訳ない。」
 追う兎の気配の違和感に気づいた神巫はそう小さく呟くともう
すでに何度目になるかわからない衝突に謝罪してさらに追って
いった。
 ところでどこに向かっているのかも判らずに走っているため、
この後ケルト達の元に帰れるかという不安に一瞬かられたが今更
帰るわけにもいかないので、というよりも捕まえるまで帰る気な
どないので今は無視することにしたのだった。
「ん? ここは、最初に来た噴水の広場か?」
 かなりの距離を兎を追って走っていくと最初にケルトに案内さ
れた噴水の広場にまでたどり着いた神巫は一瞬足を止めて周りを
見たが、それがいけなかった。追ってきた白い小さな兎は混乱し
ているのか噴水の中へ向かって一気に飛び込んでしまった。
 それも綺麗なまでに、その小さな体でどうやればそこまで飛べ
るのかというほどに高く長く飛び、小さなその体の軽い体重には
似合わない盛大な音を立てて水に中に落ちて、溺れてしまった。
 あまりにも盛大にいっそ清々しいまでの落ちっぷりに、神巫は
その場で眼を大きく見開き立ち止まったままの姿勢で固まってい
た。
 時間にすれば2秒とたっていなかっただろうが、それでもずい
ぶんと長く感じたその間の後におぼれておる兎を救出しなくては
いけないということにはたと気付いてあわてて駆け寄っていく
と、噴水の周囲を囲うように作られている花壇を飛び越えて濡れ
るのも気にせずに入っていった。
 この噴水見た目よりも意外と深く、どうやら地面よりも下に底
があるらしく、中に入った神巫の膝近くまで水があった。これで
は小さな兎が溺れてしまうのも頷けるというものだった。
 バシャバシャと水音を立てて近寄っていくとそれ以上の音を立
てて暴れている兎を片手で救い上げた。そう、片手で救い上げる
ことができるほどにその兎は小さかったのだ、子兎でももう少し
は大きいのではないかと思えるほどに。
 だがこの兎、じっとしてない。救い上げた後も散々暴れて水滴
がこれでもかといわんばかりに神巫に向かって飛び散ってきてか
なり濡れてしまった。
 そしてその小さな濡れぼそった暴れたくる兎を抱えて噴水から
出るために歩いていった。さすがに視線が痛い。
「大丈夫か?」
 噴水の縁に足をかけたところでやっと落ち着いたのか大人しく
なった兎に返事など返ってこないと分かっていながら声をかける
と、その言葉に反応するように顔を上げ蒼い瞳を向けてくると意
味を理解しているのかひとつうなずいた。
 神巫はその兎の反応に首を傾げてから噴水から出ると、安心さ
せるようにそっと抱きしめた。腕の中で「クキュウ……」という鳴
き声が聞こえたが、嫌がる様子もなく心地良さそうに鼻頭をこす
り付けてくるところを見るとどうやらなつかれたらしかった。
 そして流石に人混みの中を走ってきたこともあり上がった息を
整えるために、最初に来たときに座った場所に歩いていき其処に
人がいないのを確認してからゆっくりと抱いた兎を傷つけないよ
うに注意しながら座った。

  
























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