走り寄る兎
 
 
 
 その後もケルトが何かといって代金を渡そうとしていたが、結
局受け取ってもらえそうになかった。
 ちなみに神巫は最初の会話ですでに受け取ってはくれないと判
断したのか、すでに他人事のように何も言わずに明後日のほうに
視線を向けて会話に加わる気配はなかった。
「神巫さんも何か言ってよー」
「無理だろ」
 ケルトの懇願に近い言葉にもそう一言の元に切り捨てると続け
て「あきらめろ」といい、店主に軽く頭を下げてまだ粘りかねない
ケルトの首根っこを軽く掴むと、子猫を持ち上げる要領で持ち上
げてから店主に1度頭を下げすっと歩いていってしまった。
 その2人の後をボリスがあわてて店主に頭を下げてからついて
くる気配がした。
 先ほどの店から2、3mも歩いたところで持ち上げられる体勢
がいやだったらしくじたばたと暴れるケルトを下ろした。いや、
正確には、つかんでいた襟を文字通りぱっと放した。といったほ
うが近いかもしれない。
 次の瞬間にドスンとケルトが落ちる音がした。因みに神巫はボ
リスよりはわずかに低いがケルトと比べるとかなり背が高いの
で、落ちると結構痛い。
「いったーい!」
 落ちたときに強かに打ち付けた場所をなでながら立ち上がると
何するんだというように睨みあげてきた。
「何すんの!!」
「おろせといいたかったんだろ?」
 ケルトの言葉にもすぐにそういって反論は聞かないというよう
にきって捨てると、正面を見てなぜか完全に動きを止めた。
「?? どうしたんですか?」
 なぜか固まってしまった神巫にボリスが不思議そうに首を傾げ
て尋ねると、神巫はその彼に困ったような、困惑したような、ま
とめて言うならばどうしたらいいか解らないというように眉を寄
せて首をかしげて前のほうを示した。
 ボリスはその神巫の行動に首を傾げて前を見て、神巫同様に固
まった。
 なぜなら前から大量の、なんというべきか、懐中時計を首から
提げた兎がこちらから走ってきたのだ。それも1羽や2羽ではな
く、大量に、まるで怒涛のごとく、津波のように……。
「な、何あれーーーーっ!??」
「兎だろう? どう見ても。
 まぁ、懐中時計を背負っているのは変な感じだが……。それ以
外に特に変なところはあるまい?」
「いえ、そんな冷静に返されても……」
 慌てるケルトの言葉にすぐさま冷静に何事もないように答える
神巫に、それに対し一応突っ込みを入れるボリス。もはや何がな
にやらという感じではあるが、とりあえず、前から走ってくる大
量の生き物は間違いなく兎である。それだけは間違いない。
「捕まえるぞ」
 とりあえず目前まで近付いてきている兎を捕まえるために手に
持っていたマントを広げると、さっと最初に到達した兎を絡め
とった。
「おお、鮮やかですね」
 神巫の鮮やかな行動に目を丸くするとそういって自分も足元を
通り過ぎようとした何羽かをさっと掴み取った。隣ではケルトも
同様に掴み取ってはなにやら魔法か何かで作ったらしい丸い器に
入れていた。
 神巫はその様子を見ながら自分も次々とマントの中へと兎を捕
まえては入れていったが、1羽だけ、神巫の手をすり抜けて後ろ
のほうへと走っていってしまった。
「っ! しまった」
 神巫は後ろへと走っていく兎に気づき慌てて捕まえた兎の入っ
たマントをまるで包み込むように結ぶと、隣で必死に兎を捕まえ
るボリスに「この中に入れろ」といって渡し、兎を追って元来た道
を逆走していった。
「え? えぇ??! 神巫さん!?」
 後ろから聞こえてきたケルトの声は、とりあえず無視した。

  
























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