購入予定
 
 
 
 店主と別れたあと肩に乗った兎を撫でながら人のいなくなった
通りを見渡した。大通りでは騒がしかった喧騒も、道ひとつ離れ
ただけでここには届くことなく静かだった。
「これからどこへ行くんですか?」
 神巫はしばらく考えているのか動こうとしないケルトに問うよ
うにボリスが声をかけるのを聞きながら別の気配に意識を向けて
いた。
 残り2人のうちおそらく『ヒアリ』は武器店にいくことを提案
するだろうと思う。『ツチヅカ』は服だろうか、とりあえず武器
店ではないようなきがする。ついでに言うとケルトの提案もおお
よそだが予想できる。神巫の服はズボンがぬれているし、ボリス
の服はとりあえず見られないわけではないがいかにも着の身着の
ままという風貌だ。だとすれば行こうとする店はひとつのみ
「神巫さんの服買いに行こうか? ボリスさんの服も買いたいです
し」
 神巫の予想通り服屋にいくことを提案してきたので、自分の予
想に表情には出さないまでも内心で小さく苦笑した。
 だが服を買いにいくのはいいが正直に言うとあまり服装にはこ
だわりも執着もない身なので、どうしようなというのが感想だっ
た。
『俺は武器買いにいきてぇんだけどな』
『武器店に行きたいのですが』
 さてどうしようかと意識を遠くに向けながら考えているとそう
いう声が聞こえてきて神巫はぎょっとした。
 1人は予想通りな言葉だ、だが、もう1人は予想すらしていな
かった。喧嘩、争い、そして何よりそれを起こす原因とも言える
『武器』という言葉は彼には似合わないし随分と不釣合いな感じ
がした。
 だが2人が武器店にいくといっている以上それを拒む理由はな
いと判断すべきだろう。自分もいきたいと思っていたのだ、都合
はいい。
「いや、私は武器店に行きたいのだが。」
 少しばかり困り気味にそう提案するとケルトはどうしてかとい
うように神巫を見上げた。なぜそこなのかと言いたげなその視線
に軽く眉を寄せるとどう答えるべきかと口を真一文字に結んだ。
その表情は勘のよいものが見れば困っているようにも見えたかも
知れないが、極普通に見ると不機嫌としかとることのできない表
情であることは確かだった。
 そして神巫を見上げたままのケルトもその表情に困惑している
のか何も言ってこず、2人はそのままの状態で固まってしまっ
た。
「どうしてですか?」
 最初に神巫に問いを掛けてきたのはボリスのほうだった。この
ままでは硬直状態が続いてしまうと思っての問いだったのだろう
が、神巫にとってもその問いはありがたかった。答えなくてはな
らないとわかっていてもなかなかどう説明していいのか言葉も、
話すきっかけも見つからずにいたのだ。
「いや、意識が戻ったあたりから武器がほしいと思っていたのだ。
それでよい機会だから買いに行きたいと思ってな」
 「いつまでもいられるとも思えんしな」最後に小さく付け足した言
葉は誰にも届けまいとしたのか口の中でだけ呟かれ、最も近くに
いたケルトにすら聞こえることはなかった。
「え?」
 ケルトはすぐに神巫の呟いた気配に反応したが、それに答える
気はないので沈黙を守っていたが、
「じゃぁ、近くにいい店があるからそこにいこう」
 というと前を歩き出した。
 そのケルトの後姿を見送ってからボリスが不思議そうに神巫の
ほうへと視線を向けてきて
「神巫さんはどのような武器を買うおつもりなんですか?」
 と尋ねてきた。
 神巫はそれに器用に片眉だけを持ち上げて見せると口元を軽く
歪めた。
「刃長の長い黒い鞘の刀と普通の刃長で白い鞘の刀を買うことにな
るのだろうな」
 まるですでに決まっているとでも言うような口調で半ば断定的
に答える神巫の言葉に、ボリスは何の疑問も持つことなく頷くと
もうひとつの疑問を口にした。
「? 使えるのですか?」
「使える。幼いうちに学んでいたからな」
 ボリスからの問いに軽く肩を竦めて答えるとケルトの後を追う
ように歩いていったのだった。

  
























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