不思議な石と僅かに違えた現実
 
 
 
 神巫は店主の言葉にしばらく考えた後自分のコートに入れてあ
る石を探した。
 それは深い茶色に似た石で光の下ではワインのような深い赤色
を示した。
「ダムセムライトという石なのだが、これでいいか?」
 少しばかり躊躇しながらそう差し出す神巫の手の中にある石を
見て店主は少しばかり眉を寄せると
「それは守護石だろう? あんたに必要な能力(ちから)のある。」
 そう言ってその石を受け取るのを拒んだ。
 神巫はその事に少し困ったように石を見ると1つ頷いた。
「まぁ、そうなのだが、他に持っているものはすでに同調してし
まっていて、今渡せるのはこれくらいしかないのでな……。」
 それでもというようにそう言うとその石を店主に示すように渡
した。
 店主はその石を神巫から受け取ってから暫く見ていたが、何か
決めたのかそれを大事に持つと1つ頷いた。
「まぁ、いいだろう。これならばそこそこの数を買ってもつりが出
せる。」
 そう言うと、ゆっくりと選べと言い残して店主は店の奥に入っ
て行ってしまった。
 神巫はその店主の行動に首を傾げたがそれでもおそらく浄化を
するのだろうと判断して、台の中の守護石を見た。
 いくつもある石の中からこれから必要になるかもしれない能力
を持つ石をじっくりと探すように1つ1つ手に取り見つめた。
 そうやって見ていくと、薄い言うなれば冬の空のような色をし
ており、銀らしき金属の枠で囲うようにされた石にたどり着い
た。
 神巫はその石の能力を記憶を遡って思い出していた。
(玉髄。確か……、精神の安定を促し、記憶、感情の整理を助け、
ギスギスした人間関係にある時は、相手を思いやる気持ちを芽生
えさせ関係修復に役立つのだったな。人間関係はともかくとし
て、精神の安定は必要だな。それに記憶の整理も……はっきり
言ってこれは早急に必要ではあるな。
)
 そうやって記憶の中にある玉髄の能力を思い出しながら持って
いると
『どうしてもっとけっていたんだろうな?』
 そう近いようで遠い、聞き知った声がしたのに驚き思わずばっ
とその声の聞こえたように思うほうを見た。
 そちらにはボリスがいて、彼は突然神巫が其方を見た事に驚い
たように目を見開いて固まっていた。
 だが神巫の耳には先程の声に困ったように『さぁ、どうしてで
しょうね?』と答えるボリスの声が聞こえていたし、その声とあ
わせるように向こう側が透けて見えるが困ったように苦笑してい
る気配のあるボリスの後ろ姿と、見覚えがあるようでない、深紅
の髪の青年の姿が見えていた。
 見ている現実と幻の差異に神巫は眉を寄せた。
 昔から見える現実と僅かに時間の違う幻が同時に見えることは
あった。だが、この幻はどう考えても今この時間にこの場所での
事のようだった。
「……………………あの、どうか、しまし……た?」
 突然自分の方を見てきたかと思えばそのまま難しい表情で動き
を止めてしまった神巫に、ボリスがそう恐る恐るという感じの声
で尋ねた。
「え? あ、すまぬ、なんでもない。」
 ボリスの声で現実に引き戻された神巫は、見えていた幻も霧散
した事に気付いた。ボリスの方は神巫の言葉にどこか納得しきれ
ないような微妙な表情をしていたが、すぐに手元の石を持ち上げ
ては神巫の方に持ち上げて鑑定するように眺めはじめた。
 そのボリスの行動の意味がわからず首を傾げてから、また手に
持った玉髄のついたネックレスを見たのだった。
(これは、別の意味で必要になるのかもしれんな。)
 そう、そっと心の深くで思った。

  
























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