空の蒼の青年
 
 
 
 ケルトもその言葉に眉を寄せてその青年を見たが、確かに外傷
らしい外傷は無く、何かの衝撃か、先程の神巫の説明通り力尽き
て意識を失っているらしかった。
「このような場所にいたと言うことは、何か事故にでも巻き込まれ
たのか。」
 しばらく考えるように見詰めていた神巫がそう先程まで青年が
倒れていた場所を見て呟いた。
 この場所にいた、という点においては川を流れていた彼自身も
あまり人のことはいえないのだが、やはり気になること江はあっ
た。
 ケルトもそのことについては少なからず考えていたらしく頷く
「本当に、何があったのかなぁ。」
 そう言ったのだった。
 神巫はそのケルトの言葉に表情を変えずただ黙って頷くと川を
見て、ふと彼の気配が特有であることに気付き、再度青年に視線
を向けた。
 彼の気配は、神巫の知る人の気配とも似ておらず、かといって
ケルトの青く雄大な龍の姿が重なって見えるわけでもない。あえ
て言うなれば、
(・・)()固めれば(・・・・)このような感じかもしれなかった。
「変わった人種だな。天空(そら)の民か……?」
 その気配に少し眉を寄せて口の中で小さく呟くとまた川に目を
向けたのだった。
 川の流れの中に何か見えるものはないかと思ったのだが、特に
見えるものは無かった。常ならば何かしら原因となる事柄が見え
るのだが、見えないということはかなりの距離を流されてきたと
言うことだった。そのことに打つ手無しと思うと青年に視線を戻
した。
「神巫さん。この人起きるかな。」
 じっと青年を見詰めていたケルトが不安げにそう言葉を漏らし
たので、神巫は瞳を細めると
「起きるだろう。然したる傷を負っているわけでもないし、おそら
く精神的に疲れているか何かだろう。だから、その疲れが取れれ
ば目を覚ます。」
 そう答えを返したのだった。
 ケルトはその神巫の言葉に少し安心したような表情になってよ
かった。と呟くと、不安に対し的確な答えを返してくる神巫はや
はり優しくて賢いな。と認識を本人に関係なく深めて、未だ意識
を失っている青年に視線を戻したのだった。
「でも、本当にどうしてだろ? どっかでみたことあるような気が
するんだけどなぁ。」
 はて? と首をかしげながら小さく口にして考え込んだ。確か
に会った経験こそないが、どこかで見かけたような気がするのだ。
もしかしたら父なら知っているかもしれないと思って青年を改め
てみた。
「ケルト殿、つかぬ事をお尋ねするが、天空(そら)の民にお会いした経
験はおありか?」
 ふと思いついたように空を見上げていた神巫がケルトに視線を
戻して尋ねてきた。
 ケルトの方はへ? という少々間の抜けたような表情で神巫を
見た後唸りながら首を傾げて考え込んでしまった。
 神巫はそのケルトの表情にほんの少し目を見開いた。何もそれ
程考え込む必要は無いのにと言うのが正直な感想だった。
「いや、解からぬならそれで良い。私のただの思い付き故。」
 流石にこのままでは長く考え込んでしまいそうだったのでそう
言葉をかけてみたが、それにも反応を返さずにずっと考え込んで
いた。考え込むと言うよりは思い出そうと必死なのかもしれない
が。
 そのケルトの様子に流石に困ったと言うように少し眉を下げた
神巫はやっと、青年の服が濡れたままではないのかと言うことに
気付いた。本来ならば岸に上げた時点で気付くべき事柄なのだが、
彼にしては珍しく完全に失念していたのだ。
 まだ濡れたままであれば確実に体を壊すのだから乾かさなくて
はと青年の服の左側の袖に手を伸ばしてみたが、そこは意外なこ
とにも濡れておらず、1番長く川に使っていた足などもすでに乾
いていた。それはまるで川に流れていたと言う事実は無いと言っ
ているようで、その中でただ髪だけがそのことを肯定するように
濡れていた。
 髪以外は濡れていないと確めると、いまだにこちらの行動にも
気付かずに考え事をしているらしいケルトを見た。
「一体何を……? ん……? ケルト殿?」
 いつまで立っても反応の無いケルトを不信に思い声をかけよう
としてみたが、そのとき彼の頭が船を漕いでいるのに気付いた。
「ケルト殿? 寝ておられるか?」
 ケルトの状態に確認するように声を再度かけてみた。
「んぅ? ……んんぅ……。すぴぃ……。」
 だがケルトはそう唸って更に深く項垂れて寝入った。どうやら
完全に寝入っているらしい。
 神巫はそのケルトの状態に呆れたような、でもどこか微笑まし
げに瞳を細めて笑みの形を作った。
「完全に寝入っておられるん。まぁ、仕方あるまいか、暖かい故。」
 そう起こさぬよう小さく呟くと、何とはなしに青年のほうを見
た。ケルトは寝ているし、この青年が意識を取り戻す気配はない
ような感じだ。いや、もしかしたらもうすぐ取り戻すかもしれな
いが、それでも今は完全にお手上げの状態だった。
「うっ……ん……
 ……………………ここ……は?」

  
























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