甘い朝餉
 
 
 
 中を見て神巫はなにを思うでもなく深い溜息をついた。ここで
はこれが普通なのかと思ってしまう。
 目の前に広がる料理を見て、まず1番に胃と頭が痛くなったこ
とは黙っておこうと心に決めながら、1つ1つ料理に視線を向け、
その料理の見た目と自分の中にある最も近い見た目の料理名を無
意識のうちに合わせていった。
「……なに、この量……。」
 隣りに立つケルトにとてもどうやらこの量は異常だったらしく、
呆れを通り越し、茫然自失といった様子だった。その呟きから、
これが普通ではないとわかり神巫は内心で安堵の溜息をついたの
だった。
「やはりこれは普通ではないのだな?」
「はい。普段はこの3分の1以下です」
 神巫のというというよりも確認に近い言葉に即答で答えると諦
めたような溜息と1つ零してからテーブルの席へと向かって行っ
たのだった。
 ケルトはいわゆる上座から右の2つ目の席に座ると自分の目の
前の席をうに指しの神巫を呼んだ。其処に座れという意味らしい。
 彼もそれに頷くとケルトの示した席に向かい腰を降ろした。
 ケルトの正面の席に腰を降ろした神巫は、目の前に出されたも
のに一瞬眉を寄せてから小さく溜息をついた。
(スコーンか。出来れば朝は紅茶かコーヒーのみにしたいが、そう
も、言っておれんからな……。
)
 少し自分に呆れつつ目の前のスコーンに手を伸ばし、焼き立て
で熱いのが一目でわかるそれを躊躇いなく1つ摘み上げた。
「まだ、かなり熱いな。ケルト殿……。」
「あっつ!」
 指に伝わる熱にそれなりの熱がまだ残っていると気付いた神巫
は、ケルトに注意をいれようとしたが、それよりも先にスコーン
を取ったケルトの声が上がった。
 熱そうに手の上で息を吹きかけているケルトの少し呆れ気味に
「だから熱いと申し上げただろう。」と突っ込んだのだった。実際
彼の名を呼ぶ前に神巫は熱いといっているので反論のしようも無
い。
 そしてそんなケルトを少し口元に小さな気付かない程度の笑み
を浮かべて見詰めた後、1番手近に在った蜂蜜を手に取りスプー
ンに1すくいすると、手に持っているそれに垂らした。
 そのとき必然的に指に垂れたそれを舐めとると、口の中に蜂蜜
特有のしつこくない甘味が広がり味覚を柔らかく刺激した。
「こっち付けても美味しいですよ。」
 と半立ての生クリームを自分の持つスコーンに塗りつけながら
神巫に笑顔で言った。
 神巫はただそのケルトの言葉に「そうか。」と頷くだけであえて手
を伸ばそうとはせず自分の手に持っているスコーンを口に運んだ。
 口の中に蜂蜜特有の甘味が広がり、次いで紅茶の砂糖を加えてい
ないもの特有の味が広がってちょうどよい味わいになった。
 そのスコーンを口に運んだ際に唇に残った蜂蜜を指ですくい口に
含んだ。その蜂蜜は微かな桜の香りを残していて、それに気付くと
味覚もそれを探そうとするのか口の中に桜の味が微かに広がった。
「……? ケルト殿、これは桜の花の蜂蜜か?」
 口の中に残った桜の味の余韻を意識しながら尋ねると、ケルトは
口の回りに生クリームをつけた状態で反応を返した。
「え? あ、はい。そうです。」
 生クリームをぬぐわずにそう答えてくるケルトに、少しだけあき
れて近くにおいてあったハンカチを手に取ると彼に差し出した。拭
けという意味らしい。
 ケルトはそれを受け取ると恥ずかしそうに俯きながら口の回りを
拭いた。
「よく、解かりましたね。桜だって。」
 そう拭きながら尋ねてくるケルトに神巫は残りの半分を口に運び
その味をよく堪能してから
「微かにだが、桜の味と香りがしたからな。」
 そう答えた。そしてまだなにかいいたげな表情のケルトを見て何
かを気付いたのか1つ頷き
「美味いぞ。」
と伝えて、先程と同じ味のスコーンを手に取った。
 ケルトは一瞬どうしてそんなことを彼が言ったのか理解できずに
きょとんとしていたが、すぐに先程自分が聞こうか聞くまいか迷っ
ていたものへの回答だと知り笑みを浮かべた。
 そして手近なスコーンを手に取り蜂蜜をつけて頬張る様を神巫は
なにも言わずにただ黙ってみていた。それはなにやら観察にも似て
いたがすぐに彼から視線を外すと、手に持っていたスコーンに蜂蜜
ではなくケルトが勧めてきた生クリームを塗りつけた。
 それを口に運ぶと、生クリームの甘さが舌の上に強く残り、さら
に紅茶の苦味がそれを助長させているようで、神巫はその秀麗な眉
をきつく顰めた。
「……甘い……な。」
 唇に残った生クリームを舌で舐め取りながら呟くと、ケルトが驚
いたように顔を上げて彼を見た。
「甘い、ですか? 生クリーム。」
 「僕はあんまり甘くないって思ってたんですけど。」と首をかしげな
がら尋ねてくるケルトに、神巫は「ああ。」とだけ答えると少しの間思
案するような表情になって
「何か、直接砂糖を塗りつけられたような、甘味だけが、舌に強く残っ
てな……。」
 と、かなり舌に強く残る感覚に眉を顰めて話した。
 ケルトはそれに対し首を軽く傾げて
「神巫さんは甘いの苦手なんですか? あ、でも、蜂蜜は舐めてました
よね? 甘味が強いのがだめなんですか?」
 そう必死に聞いてきた。
 神巫は少し首を傾げて考え込んでから納得したように頷いた。
「甘いのが苦手と言うよりも、砂糖の味が苦手なんだ。ほら、甘いだけ
で他に味がしないし、舌に強く残るような感覚があるであろう?」
 そう生クリームと近くに珈琲か紅茶にでも入れるためのものであろ
う砂糖の入ったポットを指差して説明した。

  
























SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送