過去を想う
 
 
 

 そうこうしながら興味をもって持ってきた本も残り4冊中1冊
となり、その1冊ももう残り数ページになったところで手を止め
た。残りの部分が他で読んだ物と同じだったのだ。
 そこで本から眼を離して溜息をつくと、僅かにこった肩をほぐ
し本棚に眼を移した。何か−彼の基準で−面白そうな本を探した。
「? 何探してるんですか??」
 彼の視線の動きに気付いたのだろう。そう尋ねてきた。
「読む物がなくなったので探しているのだ。」
 そう答えた。
 するとケルトは少し考えた後「ちょっと待ってください」とって部
屋を出た。
 困惑したのは言うまでもなくクロスの方でどうしたものかと考え
ていた。しばらく考えて結局何もすることが無いということから外
でも見て待っておこうと無理矢理納得した。そして窓の近くにイス
を運ぶとそこに座った。
 そうやって何とはなしに外を見ていると、薄く好けた蒼い龍が城
の周りを飛んでいるように見えた。もちろん本物ではない、彼だけ
が見ることができる幻だった。何でそう思うのかといわれれば勘と
しか言いようが無かった。ただ、それでもなんとなくそう確信して
いた。
(この様子だと、能力(これ)は生まれつきだな。)
 だとしたらこれも当然のことか。などと完全に諦めたように普通
に受け止めていた。
そして外の景色を見ているうちに先程の一文が頭をよぎる。
「なるほど、白亜の都に紺碧の城、舞い降りたるは蒼き龍……ということか
。」
そう呟くと小さく笑みをほんの一瞬だけ零した。
 そんな風に外を見ていると、ケルトが戻ってきたらしくとの開い
た音がしたのでそちらを向いてみたら
「…………………………一体何をどれほど持ってこられた?」
 そう言って彼のもとに歩いていった。
 ケルトは自分の頭よりも高く積んだ本で前が見えなくなっていた。
こんな状態でよくこけずにここまで来て、しかも戸を開けたものだ
と思った。
「限度というものがあろう。1度では辛いと思ったら数回に別ける方
が良いとは思われなかったのか?」
 溜息を堪えながら彼のもってきた本の4分の3を片手で持ってベッ
ドにむかった。クロスの少々手厳しい言いようにケルトは落ち込み
かけたが、それでも彼の言い分も良くわかった。
 自分でも解かっていたのだ。いくらなんでも1回でこれだけの量
を運ぶのは無茶だということぐらい。それでも彼に早く渡したかっ
たのだ。だが解かっていても心では納得がいかないのも事実な訳で
「まぁ、とった行動に問題はあれど、もって来てくれた事には感謝す
る。有り難う。」
 少しこっちに目を向け淡々と言うと先ほど動かしたイスの近くに
ある台に本を置き、1番上にある本を手にとりながらイスに腰を降
ろしてそれを読み出した。
(かっこいいなぁ。)
 ケルトは本を読むクロスを見て掛け値無しにそう思った。
 客室なのでそれなりに立派な造りをしたイスに足を組み、手で顔
を支えながら本を読む彼はやはり様になっていて、思わず見惚れて
しまう。
「ケルト殿、見るのは構わぬが、手は辛くないのか?」
 自分を見つめたまま動かないケルトに、口元を良く見ればわかる
程度の苦笑を浮かべて尋ねると、彼は弾かれるように顔を上げて慌
ててクロスの置いた本の上に自分が持っているそれを置くために歩
いて近寄っていった。
「クロスさんて、何しても様になるタイプですよね。」
「…………いや、料理はなどでは様になるところか、異様極まりない
な。」
 しばらく読む手を止めなかった彼が急に読む手を止めてケルトを
見るとそう答えた。どうやら聞いていたらしい。
 ケルトはケルトでまさか答えがかえってくるとは思っていなかっ
たので驚いていたが、すぐにクロスの言った姿をおもいうかべた。
確かにこの冷たい美貌の青年がエプロンをして無表情で料理をする
様はなんとも言えず、異様極まりなく、その光景を思い浮かべて思
わず噴出した。
「確かにそればかりは様になりませんね。」
「だろう?」
 くすくす笑いながら言うケルトにはっきりと誰が見ても解かる笑
みを浮かべるとそういった。
 ケルトはまた彼の笑みに一瞬見とれてしまった。後になって解か
ることだが、彼がこれほどはっきりと笑うことは珍しかった。

  
























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