1つ目の鍵
 
 
 

 自分が言った言葉であせっている彼の様子を笑うでもからかう
でもなく、黙って待っていた。その彼の態度に安心したのか、なん
となく落ち着きを取り戻すと
「え……と、あの、眼鏡、掛けないんだと思いまして……。」
 そう困ったようにぽつぽつと呟いてきた。
 一方クロスのほうもそこで自分が普段眼鏡を掛けていたらしい
ということに気付いた。そして目元に手をあたると確かに何か落
ち着かないような気がした。
「ああ、どうやら、眼そのものは悪いわけではないらしいので、解
からなかった。
それはどこに?」
 1度気付いてしまうとやはり違和感を脱ぐえず、とりあえずそ
れをかけようとケルトの方に視線を向けて尋ねた。
 ケルトはそのクロスの言葉にかすかに首をかしげながら、台の
下にある引出しに手を掛けるとそこにあった眼鏡を取り出し
「眼が良いのに掛けるのですか? 必要ないのでは?」
 とクロスに手渡しながら尋ねた。
 そのケルトに苦笑を微かに浮かべたが、すぐに眼鏡を掛けるこ
とでその表情を隠すと、ケルトをまだどこか苦いものが残る眼で
見ながら
「気付かなければ何ともないのだが、気付いてしまうとさすがにな。
長年親しんでいたらしい分、気になってしまって仕方がない。そ
れにこれは度の入っていない、いわゆる伊達眼鏡。というものら
しい。」
 そう淡々と告げるとまた本に視線を戻して読み始めた。
 黙々と本を呼んでいると、ケルトが正面から顔を覗き込んでき
たのでいぶかしんで彼を見るが、彼は彼でそれで何かに納得がいっ
たのか数度頷くと子供のように眼を輝かせて
「やっぱりそうだ! さっき気付いたんですけど、やっぱりクロス
さんの瞳左右で違います。」
「はぁ!?」
 そのケルトの言葉にクロスは珍しくも素っ頓狂な声をあげた。
自分の顔を見ることなど鏡の無いこの部屋では可能なので急に言
われても困ってしまう。
 そんなクロスの内心など解かる筈も無く彼の反応に首を傾げる
「どうかしたんですか?」
 そう尋ねてきた。
 彼はそのえるとの様子に今までで1番はっきりと苦笑すると
「瞳ばかりは鏡無しでは見ることはかなわぬしな。というよりも見
えたら流石に怖い。何より覚えておらぬからな。」
 というよりも気にしていなかったのかも知れぬ。と付け足しケ
ルトを見ると、彼は苦虫でも噛み潰したような表情をしていた。
どうやら先程いったことを気にしているらしい。
 先程も思ったことだが、どうやら彼は気にしやすい性格の持ち
主らしい。と内心呆れつつも
「気になさるな。たとえ覚えていなかったとしても、おそらく私は
同じ反応を返しただろうからな。
 何より私が気にしていないことを貴殿が気にする必要はあるま
い? こういう言い方は厳しいと思うが、それは無駄なことだ。
貴殿が気にしたところで私の記憶が戻るわけではないのだから。」
 と。厳しく突き放すように言った。すぐに思い出す可能性もあ
り、特に苦があるわけでもなのに同情されるのも、実を言うと居
心地が悪い。
 その居心地の悪さをどうにかしようと思っていった事だったの
だが、やはりケルトぐらいの年の子供には言い方がきつ過ぎたら
しい。余計に落ち込ませてしまった。
 幼い子供への言葉というのは選び方が難しくて困る。そう思い
すでに何度目になるかも解からないため息をつくと
「申し訳ない。少々言い方が厳しかったな。
 先に申し上げなかったのが悪かったのだが、自身のことは忘れ
てしまってはいるが、それ以外を忘れているというわけではない
のだ。だから特に不便があるわけでもないのでお気になさるな。」
 少しずつ考えながら話す彼の言葉にケルトは少しずつ笑みを取
り戻していった。大分遠まわしな言い方をしたが、どうやら通じ
たらしい。
 うれしそうな表情に成ったケルトを見てホッとすると、すぐ本
に視線を戻した。
 その後はただ黙々と本を読みつづけるクロスと、そのクロスを
眺めるケルトというなんとも珍妙な光景が続いたのだった。
 そんな光景が1時間ほども続いたころ、何か気になる記述を見
つけたのか、クロスは顔を上げると考え込んでしまった。
 突然顔を上げるや何やら考え込んでしまったクロスをケルトは
首を傾げてみた。だが彼はそんなケルトの反応に気付く様子も無
くずっと考えに没頭しているようだった。
 何を見て考え込んでしまったのかと思い本に視線を移すとそこ
には『世界の守護龍族』という文字が書かれていた。
「………………………………………………。」
 何について考えているのかはすぐに解かったが、あえて何も言
わないことにした。
 しばらくすると考えがまとまったのか、1つ納得したように頷
き、少しだけケルトを見て本へと視線をまた戻したのだった。
 ケルトはケルトでなんで彼がそんな行動をとったのかいまいち
判断し切れず眉を寄せると
「何ですかぁ。一体。」
 そうぼやいたのだった。
 そのぼやきはしっかりとクロスに聞かれていたわけで、しっか
りと聞いていたクロスは彼のほうを見ると微かに口元に浮かべて
「いや、ケルト殿は守護龍族の末裔であったのかと思ってな。」
「………………そんな抽象的な詩でよくわかりましたね……。」
 クロスの言葉に驚いたような表情で呟いた。この本にはあまり
詳しい説明はかかれてはいなかった。というよりも先程のケルト
の言葉どおり詩としてしか書かれてはいない。そのような抽象的
としかいいようの無い表現で本当によく解かったものだと思う。
 クロスのほうはケルトの反応に少し意外そうな表情をしたが、
すぐにその反応のほうが普通と思い直したのか、その意外そうな
表情をしまい何事も無かったように淡々と
「『蒼き龍、十字架の名を掲げし国の祈りに答え降りたたん。
 その龍、空の髪、陽の瞳の人の姿となりて世界の守護者とならんがため国に住む。
 されど、解放されし力甚大にして言うべからず。
 ただその場にいるだけで大地を切り裂き、嵐を呼ぶ。
 それを愁いし龍、力を封印せんがため、髪に陽を、瞳に空を封じん。
 ゆえに龍、その本性をも意思の元に封じん、そは慈愛と守護欲なり。
 龍の血、十字架を掲げし国に継がれ行かん。
 そは白き都の紺碧の城に住まいし守護神。
 その真の姿こそ『群青の守護神』なり。』
 ………………であったか。
この詩にはほとんどの情報がある。後は理解できるかどうかの問
題なのだろうと思う。」
 本に書かれていた詩を静かな、微かにかれた声で朗読すると、
そう自分の考えを告げた。
 抑揚の無い声で紡がれた詩はとても静かに、聖歌のような響き
を持って消えていった。
「それでも普通はわからないと思います。」
 聞き惚れてしまった事を隠すように僅かに赤くなった顔のまま
そっぽを向いていった。おそらく彼にはこんなことをしてもばれ
ばれなのだろうけれど。
 そんなケルトの内心を理解しつつ内心で苦笑しながら
「無論知っているとは思うが、十字架はクロスとも言うのだ。『十
字架の名を掲げし国』つまりはこの国のことであろう? 同じな
の国が2つもあるとは思えぬし。まぁ、『十字架』という名の国
があるのなら別だが……。
 蒼き龍は空の髪、つまり蒼い髪に陽、おそらく金の瞳だと思う
のだが……。そのような外見の人の姿になったが、そのままでは
あまりにも力が強い所為で周りに被害が出るので髪を金に瞳を蒼
にすることで力を封じた。ということだろうな。
 白き都はおそらく城下のことであろう? 外観を見る限りでは
確かに白亜の都という感じだからな。この白は城内からではなん
となくでしか解からぬが、蒼いのであろう?
 だからおそらくは、とな。」
 やや長めではあったが、意外とすんなりとした答えの説明にケ
ルトは感心しきった様子で頷いた。よくあれだけの間にこれほど
の事が考えられたものだと思う。
 少しの沈黙の後クロスは特に答えを望んでいたわけではないらしくこ
の話はここで一端終わった。

  
























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