第一話:始まりの瞬間

始まりの会合
 
 
 

 見知らぬ部屋で目覚めた彼は、周りを見渡した。
 何故かここにいる理由が分からなかったし、自分の事も靄がか
かったように思い出せなかった。無理に思い出そうとするとよけ
いに頭が痛くなっていくようなきがする。しかも何故か後頭部に
動くたびに痛みが走る。
「あ。」
 幼さの残る高い声が後ろの方から上がり、頭が痛むのをあえて
無視してそちらを見るとやはり、声と同じく幼い顔立ちをした少
年が大きな目をこれ以上開かないを言うほど開いてこちらを見て
いた。
「目覚めたのですか!? 丸1日眠りつづけていたので心配したん
ですよ。」
「……丸……日……?」
 少年の言葉に首をひねった。1日くらいなら心配する必要はない
と思ったのだ。
 どうやらよほど不思議そうな表情をしていたらしく、相手の少
年は近づいてくると彼の隣の椅子に座った。
「あなたを見つけたときは大変だったんですよ。
いきなり川の上流から流れてきて、見つけて岸まで運んだのはい
いんですけど、ほら僕ちっちゃいでしょ? だからここまで運ぶ
のに苦労しちゃいまして。」
 苦笑い気味に自分を指差し言う少年に彼は少し口元を緩めなが
「それは、ご迷惑をおかけした。私は見かけによらず重かったであ
ろう?」
 そういうと少年は首を横に振って「そんな事ないですよぅ。」と答
えてきた。
 人懐っこいものだな。と彼は思った。
「ここはどこかお尋ねしてよろしいか?」
「え? あ、ああここですか?ここは『クロス国』の首都『ディスク
トール』にある『フィレンス城』の客室ですが。それがなにか?」
 記憶が戻るきっかけになるかと思って尋ねてみたが戻るどころか
よけいに混乱してしまった。
 どう考えても知らない。記憶が曖昧ではあるが間違いないと思っ
た。
「そう……か。」
 一言とりあえずそれだけ答えると考え込んでしまった。
「……名前。」
「……え?」
「名前なんといわれるのだ? 本来であれば私から名乗るのが礼儀で
あろうが、頭を打ったせいか、名が思い出せないので先に教えてい
ただきたい。」
 本当のことを言いつつ尋ねた。多分少ししたら思い出すと思った
が、今はそれが事実だった。
 相手の少年は驚きをあらわにした表情でこちらを見ていた。その
瞳は明らかに心配と不安の色を示していた。
「わからないんですか? 何も?」
 確認するように聞いてくる少年に、彼はただ頷くだけだった。
「そ、そうですか……。あの、僕の名前は、ケツァルコアトル=パプ
リシアといいます。皆はケルトと呼ぶのでそう呼んで下さい。」
 納得したのかそう答えると下を向いてしまった。こう言うのは落
ちつかない。
「……あの、私の記憶喪失は、後頭部を強打したのが原因だと思われ
るから、
日か長くても半年ほどでもどると思われるので心配なさる
必要はない。」
 なんとなくだがある知識をもとにすれば多分そんなところだろう
と考え説明した。実際、頭が痛いので強打しているのは間違いない
だろうから。という結論だった。
「…………………………思い出すまではクロス、と呼んでいただきた
い。呼び名がなくては困るので。」
 抑揚の欠片もない声で淡々と話してしまうのは、おそらく以前か
らの癖のようなものだろう、意識せずになると言う事はかなり長い
間この状態だったと言う事だろうな。と頭のはしで思った。
「あ、はい、わかりました。クロスさん。
 あ、あの、『コウトウブ』ってどこですか?」
 嬉しそうに返事をした後、いまいちよくわからなかったのか、顔
を赤くして尋ねてきた。声は今にも消えそうだったが。
「………………。
 後頭部というのは頭の後ろの方……。口で言うよりも手で示した
ほうが早いな。」
 ケルトの問いに少し考えてから説明しようと言葉を出したが、口
で言うよりも実際に触ったほうが早いと判断すると、ケルトの頭の
後ろの首より少し上のあたりに触れて、「ここの事だ。」と示した。は
っきり言って自分の後頭部を触るのだけは避けたかった。―いまだに
かなり痛いから……。―
 その説明にケルトは、彼の示したあたりを触るとにこりと笑ってみ
てきた。
「わかりました。あ、今日は大事をとって休んでてくださいねv」
 にこにこ笑いながら言ってくるケルトに悪意はなく、丸1日眠りつ
づけたことを考えればしかたのないことだと思ったので、おとなしく
しておくことにした。
「わかった。」
 1つ頷いて答えるとケルトはさらに笑みを深くして、「何か持ってきま
すねv」といって部屋から出ていったが、出た直後にゴツンッ! という
鈍い音がしたものの、あえて聞かなかったことにした。相手もいやだろ
うし…。
 足音が離れていって完全に聞こえなくなると、かすかに苦笑したよう
な表情を見せ
「大丈夫なのだろか?」
 と小さく呟いた。

   
























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