単独行動
 
 
 
 食堂を出たローグは一度だけ今出てきた場所を振り返ってから
心の中で面倒ごとを押し付けてきたシュヴァルツに謝罪の言葉を
呟いた。
 そしてすぐに宿から出て街へ行こうとしたが、そこでまだ自分
が財布を荷物の中に入れたままであることに気づきいったん部屋
に戻ることにした。
(忘れていた私にも問題はあるが、支払いはどうするのだろうか? 
やはりシュヴァルツ殿に任せるしかないのか? 気が引けるが、
戻るのはもっといやだから後で払うか……
)
 やや無責任なことを考えつつもいやな予感も同時にかなりする
ので自分の部屋に着くとすぐに戸を押し開けると、ベッドの隣に
おかれた荷物に足早に近づきその中から財布を取り出した。
 ここでいろいろと購入物があるのは前もって覚悟していたので
それなりの金額を持ってきてはいるが足りるかという点ではかな
りの不安が残りもした。
 剣がいかれてしまったのは正直誤算だった。かなりの上等な一
品を持ってきたつもりだったが、扱い方がわるかったのか刃はす
でにぼろぼろで、これから行く場所を思うとはっきり言って心も
とない。
 もちろん剣といっても唯の剣ではなく、龍人たちの鱗である
『龍鱗』によって鍛えられた一級の品であるので金額もそれなり
にしたりする。修繕が可能ならばそれでいいのだがそれは望めな
い可能性もあるのであまり楽観はできなかった。
「鍛えに出すか、それとも買いなおすか……」
 改めて二振りの剣を鞘から出しその刃を見ると1つ溜息をつい
た。
 自分の力不足とはいえ父の鱗から作った剣がこうなってははっ
きり言って顔向けできるようなものではない。作り直すとすれば
自分のうろこを使うことになるだろうが、すぐにはできないだろ
うからどうあってもかなりの時間がここで費やす可能性がある。
 だが直す、購入するどちらにしても持っていくにこしたことは
ないので昨日と同じように腰に下げるとそのまま部屋を後にし
た。
 部屋を出てからすぐに宿を出るように早足で歩いているとなに
やら食堂のほうが騒がしい。どうかしたのだろうかと思ってそち
らに一瞬視線をやってすぐに元に戻してさらに歩く速度を上げ
た。
 彼が見た視線の先には人の山ができており、それなりに離れて
いたのだが話し声が聞こえてきた。
「巫女姫様がきておられるとか」
「ああ、見かけた。とてもお美しい方だったぞ」
「祭司様はいらっしゃるのだろうか?」
「騎士団の総帥様はいらっしゃるようだぞ」
 ざわざわと聞こえてくる声に見つかっては買いにいけないと判
断したローグは完全に他人事で通そうとすたすたと歩いていっ
た。
 とりあえずこの町はほかでは珍しかろうとも、龍人が住む谷が
近いということもあり龍人そのものは珍しくない。それを利用し
て自分はたまたまここにいただけですという風を装うことにして
やり過ごすことにしたのだ。
 2人には、さすがに悪いとは思うが、あまりつかまりたくはな
いというのが本音でもあるのだ。
 そして宿から出ると1度だけ後ろを振り返って「すまん」と口の
中で誤ってから小走りにその場を後にしたのだった。

  
























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