精神ダメージ
 
 
 
 クリスティーアの発言に予定外のダメージを受けながらもそれ
ぞれの食事を再開した3人だが、結局ローグはトーストに手を伸
ばそうとはせずサラダを食べ始めた。
 しゃくしゃくと音を立ててまだ瑞々しいレタスを食べながら、
2度と彼女の前で指を舐めるような行為はすまいと心に深く誓っ
たのだった。
「トースト、食べないの?」
 トーストに口をつけようとしないローグに首をかしげながら尋
ねてくるクリスティーアに「元凶が何を言う」と内心で怒鳴りながら
「…………………………食べる気が失せた」
 そう答えた。ほかに言葉はないのかとも思うが精神的につかれ
きっていて頭が回らなかった。
「うわ、失礼ねー。じゃぁ、私に頂戴、これおいしい」
 ローグの返答にあからさまに驚いたような表情をした後トース
トの乗った皿を取って自分の手元に引き寄せながらいうと、ロー
グの返事も待たずに食べかけのトーストにかぶりついた。
 間を空けず、相手の反応など待ちもしない彼女の行動に男性2
人は完全に固まってただその行動を見守るだけだった。
 カリカリだったトーストもバターや蜂蜜がしみこんで柔らかく
なっており、カリカリのときよりもしっとりとして別のおいしさ
があった。
「ん〜。おいし〜ぃ」
 トーストを口に入れながらそう幸せといわんばかりの笑みで言
うクリスティーアに、ローグは肩といわず全身でぐったりと脱力
して見せたのだった。
「お前は本っ当に恥じらいがないな」
 下を見たまま力なく言うローグに何のことかと首を傾げた彼女
だか、その仕草は下を見たままのローグにはそれが見えることは
なかった。
「あ、間接キスだねぇ」
 どう思ったのか、気がついたのかあっけらかんと言う彼女の発
言にローグはそのまま机にごつんと額をぶつけて動かなくなっ
た。精神ダメージは先ほどの発言よりも大きいかもしれない。
「どしたの?」
 突っ伏したまま反応の返らないローグに声をかけるがやはり反
応はなし。どうかしたのだろうかというように見ていたが一向に
反応のないローグに痺れを切らしたのだろう。食べるのを再開し
た。
「………………帰りたい……」
 口の中で小さく呟いた声はもちろんクリスティーアに届くこと
はなかったが、シュヴァルツにはかろうじて届いたらしく苦笑す
る気配がした。
 帰るわけに行かないのは解っているのだが、まだ旅に出たばか
りだと理解しているのだ頭では。だが心が納得するのとは別問題
なのだということをこのときローグは初めて心のそこから理解し
たのだった。
 つまるところそれは本当に心の底から今現在「帰りたい」と願っ
ているということであった。
 それでも途中で帰るわけに行かないという義務感で、とりあえ
ずこの先にあるであろう事柄に覚悟を決めることにして顔を上げ
るとサラダを食べるのを再開した。
 食べ終わったら2人をおいてでも先に買い物に行こう、そう心
に誓って。

  
























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