甘いトースト
 
 
 
 店員が持ってきた料理をそれぞれ受け取った。
 ローグが頼んだものはほぼそろっていたが、シュヴァルツのサ
ンドイッチとクリスティーアのサンドイッチとグラタンにアイス
がまだきていなかった。グラタンやアイスがきていないのは分か
るがサンドイッチもきていないというのは少しおかしな話ではあ
るような気がした。
「ローグのは全部きてるねー。私とヴォルはきてないのあるね。」
 料理の内容を確認しながらそう呟くクリスティーアにローグは
ため息交じりに「仕方ないのではないのか?」と返すととりあえず渡
されたスープに口をつけ始めた。
 そのローグの言葉にどこかむっとした表情でにらんだが、それ
を気にすることなくスープを飲み続けるローグにあきらめたのか
何も言わずに自分の料理に手を伸ばした。
「トーストあまーい。おいしぃ〜」
 一口含んだところでクリスティーアは至福といわんばかりの表
情で手を頬に当てると笑みを浮かべた。
 カリカリに焼けた表面に溶けたバターが砂糖と混ざっておいし
かった。砂糖の甘味は自然でバターの塩味にも程よくあっていて
クリスティーアは好きな味だった。
 その彼女の前でローグも同じようにトーストを口に運んでいた
が彼はクリスティーアとは真逆の表情で、眉をきつく歪めるとす
ぐにトーストをさらに戻して珈琲に口をつけた。どうやら彼には
合わなかったらしい。
「注文を失敗したかも知れんな。甘い……」
 口の中の甘味を珈琲で流してからそう小さく呟いた。
 別に甘いのが嫌いというわけではないが、少々これは甘かっ
た。
「甘いの苦手なんだ?」
「苦手というわけではないのだが、これは少し、甘い……な」
 手にもついたのだろう指先をぺろりと舐めながら眉を寄せて思
案顔で呟くさまにクリスティーアはじぃっと見つめていたが、あ
えてそれを無視していると両膝をテーブルに立てて顎を乗せて見
てくるのでさすがに行儀が悪いというべきかと考えていると
「指舐めるのって、なんかエロい? だっけ? だねぇ」
 と呟いてきた。
 ゴインッ! と大きな音を立てクリスティーアの言葉を聴くの
と同時にローグはテーブルに顔面から突っ伏した。
 その反応にクリスティーアは珍しく眉を寄せ何をしているのか
というような表情で見てくるが、言われたほうが受けたダメージ
のほうが大きい。というか、一言で示すならば撃沈、というべき
だろう。
「……………………巫女姫殿、どこでそのような言葉を……?」
 口に運ぶ途中だったサラダをそのままにして尋ねるシュヴァル
ツの表情も、完全に驚愕をとおりこして呆然としていた。もはや
驚きすら通り越してしまったといったところなのだろう、尋ねる
言葉は、震えていた。
 それでも確かに少女が使うべき言葉ではないとは思われた。
「え? 幼馴染の子がそう言ってたのよ」
「……………………そうか」
[そうよ]
 シュヴァルツの言葉にもあっさりとした答えしか返ってこない
のはおそらく、意味を間違えて覚えているのだろう。
「……どういう意味だと教わったんだ?」
 言葉のダメージからやっと回復したのだろうローグがそう疲れ
をにじませたような声で尋ねてきた。
「褒め言葉」
 返ってきた言葉に2人がさらに力なく項垂れてしまったのは言
うまでもない。とんでもない教えられ方をしたものである。

  
























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