ある種の精神的打撃
 
 
 
 そうやって、結局抵抗らしい抵抗もできずに……というか現実
に戻れなかったというべきか、とにかくそのままの状態で湯船の
端に連れて行かれてしまったローグだった。
 クリスティーアはとりあえず腰まで濡れてしまった服を軽く絞
ろうかと考えたがどうせすぐに濡れると考え直し、そのままロー
グの頭を抑えると長い髪を湯の中から出して下に垂らさせた。
「…………痛い。」
 頭が抑えられた事で昨日強打した腰に負担がかかり小さく抗議
の声を上げた。最早この状況に対しては何も言わない事に決めて
しまったらしい。いや、決めたというよりも諦めたと言うべき
か、下を向いてしまっているので解かりにくいが表情はぐったり
としている。
「髪引っ張ってんだから当然でしょ?」
 そのローグの抗議にも引っ張っている頭の方だと勘違いしたク
リスティーアはそう言ってきた。
「……………………昨日強打した腰が、痛いんだが」
「………………え?」
 勘違いしているクリスティーアに小さく言うと、彼女の方もま
さかそんなとこに怪我があるとは思わなかったらしく一瞬固まっ
て腰、というよりも背中の辺りに視線を向けた。
 そこには普段は髪と服で隠れて見えないはず場所だが、今はク
リスティーアの手によってすべて下に降ろされているため確か
に、打撲痕としか言えない程の痛々しい青紫の痣が大きく広がっ
ており、場所は腰というよりは背中の辺りにかなり広くできてき
た。
「………………先に言ってよ」
「………………誰がこうなると予測するか」
 小さなクリスティーアの抗議の声に同じように小さく抗議した。
 とりあえず、クリスティーアはそのローグの抗議で気付いた痣
に気をつけながらそっと頭を下に降ろすと、周囲を見渡してシャ
ンプーとリンス、そしてトリートメントの入った容器を見つける
と、まずシャンプーの容器に手を伸ばした。
 シャンプーを出すと掌で軽く泡立てるとローグの髪の端に絡め
て泡立てたが、長い上にどうやら量もあるらしいローグの髪は最
初にとっただけの量ではどうやら全体に馴染ませることはできそ
うになく、クリスティーアはやむなくもう1度同じ量をとり泡立
てると髪に馴染ませた。
 そうやってやっと全体に馴染んだシャンプーをよく泡立てると
シャワーを取りお湯を出した。最初は冷たかったお湯が1度熱く
なり適温になった事を確認するとそっと髪にかけた。
 上から下にゆっくりと掛け丁寧に泡を流すと次にトリートメン
トを手の中に出した。先程のシャンプーの時に気付いた通りに少
し多めに取って髪の端から丁寧に、頭に直接付かないように気を
つけながら馴染ませると自分の髪を纏めていた布を取りぬらして
軽く絞ってから1度頭の上に纏めた髪を包んだ。
「ついでに背中に軟膏塗っとこうか。それで治るでしょ?
 どうせでてけって言うんでしょ? 一端でとくから髪はそのま
まにして出といてよ?」
「………………解かった。ズボンだけ中に入れてくれ」
 怪我はやはり心配なのだろうそう言ってきたクリスティーアに
ローグはどこか複雑ながらも、流石に背中に自分で塗る事はでき
ないので今回だけは黙って従う事にして、そう言ったのだった。
 そのローグの言葉にわかった。というと外に出てすぐにズボン
を中に投げ入れてきた。汚れているところを見ると昨日のらし
い。確かに濡れるなら汚れている方が都合はいいので戻ってこな
い事を気配で確認してから湯船から上がった。長く浸かりすぎて
いて、完全にのぼせていたがそれは沈黙で隠す事にする。
 そしてズボンを履き床に座るとなんだかまだ朝が始まったばか
りだというのに今日1日分の気力と体力を使い果たしそうな予感
のするローグだったが、まるで床に座るタイミングを見計らうよ
うにして入ってきたクリスティーアに確信へと変化してしまった
のだった。
「あ、ちゃんとしてるねー。んじゃ、薬塗って痣が消えたらトリー
トメント落としてリンスしようねー」
 床に座っているローグにそう楽しげにいうと手に持っているら
しい軟膏を痣のある背中に少しづつ塗っていった。
 軟膏の冷たい感触が背に伸ばされるのは正直クスグッタクテ
しょうがないのだか、こればかりはどうしようもない。それに
塗っていくところから打撲で残っていた痛みが消えていくのも解
かった。
「ほんと傷の治り早いなぁ。塗っただけで治ってく……」
 塗ったところから痣が薄くなっていっているのだろう、クリス
ティーアの呟く声はどこか恨めし気というか羨ましいという色が
含まれていた。
 ローグはそのクリスティーアの呟きに少しばかり苦笑したが何
も言わなかった。
 そして薬が縫い終わった後、1分と経たずに痣も完治したらし
くんじゃとリーと面とおとそっかという言葉と共に髪を上に纏め
ていた緑の布を解き、ゆっくりとシャワーから出るお湯をかけて
トリートメントを落とし、今度はまをあけずにリンスを掌に取り
髪にしっかりと広げてから髪に馴染ませ、今度はまを開けずに流
したのだった。
「んじゃ、これで終わりねー。早めに上がって服着てご飯食べて買
い物行こうねー」
 そういうや否や風呂から出て行ったクリスティーアの後ろ姿を
見て心の中で小さく
(もう今日の気力と体力は使い果たした気分なんだが……)
 と呟いた。
 そして、今度こそ本気でホームシックになってしまった自分が
悲しくなったのだった。

  
























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