双黒の龍
 
 
 
 部屋はやはり黒と、それにやや暗い蒼が置かれておりどこか冷
たい印象を来るものに与えた。
 青年は部屋の奥、この本部では珍しい大きな窓の前においてあ
る机の前におかれたソファの1つに腰を降ろすと、ローグに正面
のソファに座るよう手の動きで促してきた。よく見るとそのソ
ファは今青年が座っているものよりも明らかに高価なものである
ということがわかる、黒い皮に部屋と同じ暗い蒼色の布が掛けら
れたものだった。
 青年の促しに従いそこに腰を降ろすと、改めて青年を見やった。
 青年は最初に見た印象通り浮世離れした感じのある雰囲気を
放っていたが、ほんの僅かな動きにも隙のない、天性の『戦うも
の』としての気質を見せていた。
 そして、気配の中から僅かに龍人であるローグは自分と同じ香
りを彼から感じ取っていた。
 だが、その事は何一つとして表に見せることなくじっと相手に
視線を向けながら
「そなたが()『シュヴァルツ=ヴォルモント』卿で、よろしいの
だな。」
 と半ば断定的に尋ねた。
 その確定的な言葉にも彼は眉1つ動かす事なく、すっとその紅
い瞳を細めると小さく肯定の頷きを見せた。
 その肯定に僅かに瞳を細めるともうひとつの確信にも似たこと
を尋ねるか否か、しばらくの逡巡の後口を開いた。
「そなたは、人間と龍人の子。【狂戦士(バーサーカ)】………………だな?」
 ローグの躊躇い気味に、それでもはっきりとした問いに、彼は
少しだけ鋭い視線を向けたと小さく「ええ。」と答えた。
 ローグはその答えに「そうか。」とだけいうとそれ以降口をつぐ
んだ。
 龍人と人間は本来【クリスタル=ローグ】の呪いによって交わ
る事はできないといわれているが、実際はそんな事はない。珍し
い事であるのは確かだが、司祭と巫女という立場でさえなければ
交わる事はできる。ただ、子供はとても弱く、大半が一年と持た
ずに命を途絶えさせてしまう上に、たとえ成長できたとしても人
間の器が龍人の魂に耐えられずに精神的な面で何かの問題を抱え
る者が多く、彼のように自然に生活できるものは珍しいのだ。
 それゆえに呼ばれる名が【狂戦士】。血の匂いを嗅ぐととたん
に自制心を失う例が多い事からこう呼ばれている。もちろん、そ
んな事ばかりというわけでもないが、こう言う例の殆は器が魂に
絶えられず歪みを生んでいる場合にみられ、彼のようなものの場
合はかなり、丈夫とも言える。もちろん龍人と比べれば足元にも
及ばないのだが。
「噂では聞いていた。まさか本当だったとは……。」
 感慨深そうにそういうローグに彼は何も言わずに押し黙ってい
た。
「そのような事はどうでもよいのでしょう? ご用件はなんです? 
予想は、できますが。」
 今まで黙っていたが、これ以上黙っているのは不自然とでも
思ったのか、そう口を開いた。
 ローグもそれに従うように頷くと
「ならばこちらとしても話が早い。単刀直入に申し上げよう、星の
記憶を解放する旅に同行していただきたい。」
 そうしっかりと見つめて答えた。
 蒼と赤の瞳が交錯し、静かにお互いを見定めるように重くな
く、それでもどこか冷ややかな沈黙が流れた。

  
























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