巫女と教皇
 
 
 
 外に出て行ったローグを見送り、教皇を呼ばれていた少女の前
に戻った。
「何も無視しなくったっていいじゃない。
 あ、っと。それじゃぁよろしくね。えっと……。」
 少女の前の椅子に座って少し困ったような、ばつの悪そうな表
情をした。
 少女はそのクリスティーアの反応に少し笑うと
「蒼天の教団、教皇を務めさせていただいている、ルクールドラ
メールと申し上げます。巫女姫様。」
 そう答えた。
青い海(ルクールドラメール)?」
 名前を聞いて可愛く首をかしげながらそういい、何度か口の中
で反芻しながらにこりと笑った。
 ルクールドラメールは彼女が自分の名前を何度も言うのを聞き
ながら、腕や肩、足、はてはわき腹にまである傷を確認していっ
た。
「私はクリスティーアよ。ね、ルクールって呼んでもいい?」
「もちろんです。巫女姫様。」
 嬉々とした様子が手にとるようにわかるクリスティーアの声に、
ルクールドラメールはにこりと笑顔を向けて答えた。
 だが、クリスティーアは彼女の巫女様という呼び方に、はっき
りと表情を引きつらせた。よく見ると腕などに鳥肌が立ってしまっ
ている。
「? どうしました? 巫女姫様」
 クリスティーアの反応に傷を癒す手をとめる事なく、首を傾げ
て尋ねてくるルクールドラメールにほんの僅かな苦笑を向けると
「できれば巫女姫様って呼ぶの、やめてくれない? 苦手なのよ、
その呼び方。」
 少し震え気味のその声は明らかにそれが本心と語っていて、ル
クールドラメールと更に驚かせた。
 巫女を巫女姫と呼ぶのは当然の事なのであって、それは彼女が
教皇と呼ばれるのと同じことであり、そしてクリスティーアはそ
の巫女であり、そう呼ばれていたはずなのだから拒絶する方が可
笑しいのである。
「ですが、今までもそう呼ばれていたのでは……?」
 明らかに困惑すた様子で尋ねてくる相手に苦笑したまま肩を竦
めると
「んー。ちっちゃいときはね、そう呼ばれてたらしいんだけど、8
つぐらいんときにね、その呼び方は嫌って私が言って返事しなく
なっちゃったから、故郷の人たち皆、名前で呼ぶようになったの。
だから、呼ばれてた記憶って殆どないのよね。」
 そう説明した。
 クリスティーアのその言葉に流石に呆然とした表情で固まって
しまったが、傷はすでに全て癒えており、痛みもなくなっていた。
「あ、治ってる。ありがとね。ルクール。」
 傷の痛みが完全にひいていることに気付き、軽く腕を振ってそ
ういうと、何かを思いついたのか、ルクールドラメールの手をが
しりと掴んだ。
「ひゃっ!??」
 突然の行動にびくりと反応して声を上げたルクールドラメール
をさらしと無視して、そのままの状態で口を開いた。
「ルクール、私たちと一緒に旅して!」
「は、はいっ。
 …………………………って、え? ええ〜〜〜〜〜〜〜!??」
 クリスティーアの急な頼みに、半ば勢いに推されて返事をして
しまったルクールドラメールだった。

  
























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