空の遊泳散歩
 
 
 
 クリスティーアの側から数歩ほど離れると少し前に屈んだ。そ
の瞬間から徐々に彼の体が光だし、長く尖った耳が更に長くなり、
そのすぐ後ろから角のようなものが伸びていき、それにあわせる
ようにして体全体に少しずつ黒く光る鱗が現れ始めたかと思うと
強い光が走りその光が収まったときには人の姿をしたローグはお
らず、変わりに黒い鱗を全身に纏った雄大な龍が佇んでいるだけ
だった。
「……ローグ……?」
 余りの変貌振りに呆然とした様子でポツリとその龍であるはず
の青年の名を呟いた。
『そうだが。どうかしたか?』
 クリスティーアの呟きに、人の姿の時の名残のような紫の瞳を
静かに向けまるで頭に直接響くような声で答えてきた。
 その声は遠く響くような感じがしないことも無かったが、紛れ
もなく先程まで話しをしていた青年のそれで。それはこの龍がロー
グ本人であるということを如実に示していた。
「……そんな姿になるのねー。」
 相手がローグと解かってもすぐには受け入れきれずそう言うと、
「龍人ってそんな外見にもなれるのねー。」そう付け足して笑った
のだった。
 最も言われたほうのローグは憮然とした感じに
『本来龍人族はこの姿が本性なのであって、人の姿は仮初のもの
なのだが……。そう、習いはしなかったか? 伝承でそう伝わっ
ていると聞いていたのだが。』
 そう諦め気味に溜息をつきながら言葉を告げた。
 その物言いは間違いなく彼のもので、それが目の前の龍があの
青年であるという何よりの証拠だった。
 それに気付いてまた笑みを深めると、「ごめーん。忘れてたー。」
とあまり反省の色のない謝罪を口にしたのだった。
 ローグはその彼女の物言いにまた溜息を吐くと、その長い首を
クリスティーアの前にゆっくりと優雅な動作で降ろしたのだった。
 どうやらそこに乗れという意味らしく、クリスティーアはその
首を支えに立ち上がるとよっと。と声をかけて飛び乗った。その
際周りに風が吹いて彼女を難なく押し上げてきたので傷を負った
腕にもたいした負担はかからなかった。おそらくローグが彼女の
傷を気遣って使った風の魔法なのだろう。
「乗ったわよ。これでいいの? あ、それと、風、ありがとね。痛
くなかったわ。」
 乗ったまではいいものの、これがあのローグだと思うとどうに
も落ち着かなかったが、一応礼を言っておいた。
『ああ。……荷は忘れないでくれ……。
 ほら、飛ぶぞ?』
 クリスティーアの言葉になんの違和感もなさそうに、だが、下
に忘れられてしまっている荷物に気付いてそれを先程彼女を上に
上げたのと同じ風で渡すと、そっと彼女を落とさないように注意
しながら首を上げてそっとその大きな翼を羽ばたかせ空に上がっ
ていった。
 ローグはいったん雲の上まで上がると高度をそのままに雲海の
上をまさしく泳ぐようにとんでいった。
「わー、すごーい、きれーい。なんだかミニチュアの箱庭見てるみ
たーい。
 ね、ね、サティーティアにはどれくらいで着くの?」
 はじめてみる景色にクリスティーアははしゃぎながら下を見て
いた。
 その余りのはしゃぎように、落ちはしないかとある意味現実味
のある不安にかられながら
『後、2、30分もすれば着く。』
 と答えた。
 クリスティーアはそれにへーと納得するとまた景色を眺め始め
た。
「雲の上って寒いもんだと思ってたけど、違うのねー。息もぉ、苦
しくない……しぃ。」
 暫くしておとなしくなったと思ったらそんな言葉を残し完全に
大人しくなってしまい、ローグは急に大人しくなった彼女を不信
に思って気配を探ると
『…………眠って……いる?』
 そう呟いてあきれてしまった。この高度で眠れる人間は流石に
珍しい。たまにはしゃぎすぎて落ちかけるものはいたが。
 それから暫くとんでいると、遠めに薄緑色の街が目に入り、も
うすぐかと思うとゆっくりと、でも熟睡しているクリスティーア
を落とさないよう注意しながら、高度を下げていった。
−END−

  

第二門終了です
2人の性格の違い、いきなり出てますね
ローグは慎重な思考派であるのに対し
クリスティーアは大胆な行動派です
この2人の違いはこれから更に大きく出てきます
特にクリスティーアの行動はどんどん常識…と言うか羞恥の無いものもあるかと
一応とはいえ花も恥らうお年頃…なのに…。
























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