傷の手当て
 
 
 
 それを聴いてクリスティーアは強く眉を顰めた。そうしなけれ
ば持たないということはそれだけ重傷ということでもあったから
だ。彼女の傷は腕の傷こそ深いが、足のほうは僅かに痛みを残し
ている程度で彼を支えて歩いても然したる負担はないに等しいほ
どに軽いものだった。
「それって、すっごく傷が深いって事じゃないの? 大丈夫なわけ
ないじゃない。やっぱり私が担いで行ったほうが速いわ。きっと。
あー、もう何で私回復系の力使えないのかしら。」
 そう捲くし立てるように言うクリスティーアの言葉を聞きなが
らローグは心中で苦笑を零した。もしかしたら彼女は回復系の力
はないのかもしれない。そう思っていたことが当たったからだ。
 そうやってるうちに両足に呪文字を全て書き上げるとすくっと
立ち上がった。流石に痛みははしるがそれでも動かすのは随分と
楽になった。
「クリスティーア殿、とにかく向かおう。このままでは街につく前
に日がくれる。」
 足の具合を確認しながらクリスティーアに言うと、さっさと進
行方向に体を向けて歩いていってしまった。
 クリスティーアはそんなローグの後を慌てて付いて行った。彼
は足の傷にもかかわらず傷を負う前と然程変わらない速度で歩い
ていたが、それでも止血されてなどいない傷は1歩歩むたびに血
が溢れていった。
「ちょ、ちょっとローグ! その傷、止血しなさいよっ。あんまり
血を流しすぎると多量出血で倒れるわよっっ!」
 歩いていった目印のように点々と血溜りを作って歩いていくロー
グの腕を引いて無理矢理歩を止め、その場にやはり渋るローグを
強制的に腰を降ろさせた。
「クリスティーア殿、このぐらい別に構わぬから。」
「黙んなさい! 私が心配なのよ! そんなひょろっこい外見のく
せに大丈夫って言われたって信用ないわ!」
 ローグの言葉にそう怒鳴りつけて黙らせると、自分の旅具の中
にある治療道具を取り出し、更にその中から軟膏と化膿止め、止
血剤に包帯を選び出した。
 ローグはもう何を言っても無駄と判断して黙ってしたいように
させることにした。
 諦めて何も言わなくなったローグの足の傷の位置を確認すると、
丁度太腿の内側だったため、クリスティーアはなんの躊躇いもな
く彼の足の間を体を滑り込ませた。
「………………なんでそこにはいる……。」
 あまりの躊躇いのなさに一瞬躊躇しながら尋ねると、彼女はあっ
さりと「見やすいから。」と答えたのだった。
 ローグの傷はどれも広く深いもので、おそらく最初はそんなに
酷くはなかったのだろうが、あの衝撃で悪化させてしまったのだ
ろう。特に太腿は太い血管の近くということもあり出血が他より
酷く、脈と同じタイミングで血が溢れ出していた。
「ちょっ……!? この傷酷すぎるわよ! こんなんじゃ街につく
前に出血多量の所為であの世行きよっっ!」
 その傷の余りの酷さにそう下から睨み上げながら、何はともあ
れ血を止める必要があると判断して止血剤を傷に塗りつけた。
「クリスティーア殿、一応申し上げておくが、龍人族は高い治癒力
と造血能力を持っているのだぞ……?」
 一応そう伝えるも彼女はまさしく聞く耳持たずといった感じで、
化膿止めと軟膏を塗りつけていった。すると、薬を塗っていった
傷からどんどん塞がっていき、彼の驚異的な回復力を見せた。
「……すごーい。薬塗ったとこから治ってくー。」
 1番重かった太腿の傷もまだ塞がってこそいなかったが、血は
ほぼ止まり後少しで塞がりきるだろうというほどに治っていた。
 ローグもそれを見ながら無意識に安堵の息をついた。本当は出
血の方は危険かもしれないと感じていたのだ。
 そんなローグの心情など気付くこともなく、残りの小さい傷に
も丁寧に薬を塗っていたクリスティーアはふと思いついたように
「回復役、1人いるわよね。」
 と力なく呟いた。

  
























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