青年の苦労
 
 
 
 一方ローグの方は急に上から聞こえてきたクリスティーアの声
に驚いて上を見ると、木の頂上から彼女が身を乗り出しているの
に気付いた。飛び降りる気だと、勘付いたローグはできる限りの
大声で声が届くことを祈りながら叫んだ。
「クリスティーア殿!! 飛び降りるのではなくっ、枝をつたって
っ、下りてこられよーっ!!」
 だが彼の声は、人間であるクリスティーアの耳では聞き取るこ
とができなかったらしく、少しの間を明けて飛び降りてきた。
 木の上から何のためらいもなく降りてくるクリスティーアにロー
グは強くちっと舌打ちをして立ち上がりながら彼女の降りてくる
場所に移動した。
 そして下につくのとほぼ同時にクリスティーアの体が彼の腕の
中に落ちてきた。
「ぐっ!」
 いくら体重の軽いクリスティーアでも高い所から落ちてきた体
を受け止めればかなりの衝撃が腕にくる訳で、受け止めた側であ
るローグはその衝撃を彼女が腕に落ちてきたのと同時に膝を曲げ
ることで緩和したが後ろに数歩よろめいて地面に腰を降ろした。
「うわぁーお。ナーイスキャーッチ、ローグ。」
 腕の中で拍手をしながらいうクリスティーアにローグはきっと
ひと睨みすると
「クリスティーア殿。何故に、そのような怪我をおっていながら、
飛び降りてこられた……?」
 そう怒りに震える声で尋ねると、彼女はあっけらかんとした感
じに一言「速いから。」で済ませた。
 ローグはその言葉に更に怒りの気配を漂わせていた。何かの切
れるような音がしたような気がしたのは気のせいではないだろう。
「その怪我で着地の衝撃に絶えられると思うておられるのか! ま
ず無理であろう!? それ以上の大怪我となれば歩くことも動く
こともできぬし、酷ければ意識がなかったかも知れぬのだぞ! 
そのような大怪我となれば今の私では運ぶこともまず叶わぬ! 
解かっておられるのか!? 自身を過信するのもいい加減になさ
れよ!!」
 そう大声で捲くし立てた。
 流石のクリスティーアもあまりのいいように何か言い返そうと
したが、よく見ると彼の腕や足は先程の戦闘で受けたのであろう
傷が開きかなりの血が流れ続けていた。おそらく最初は何てこと
なかったのだろうが彼女を受け止めた衝撃で広がり、浅かった傷
も深く裂けてしまったのだろう。
 それに気付くと何も文句はいえなかった。
「うひぇ〜、いたそー。大丈夫? 歩けるの? 担いでいこうか?」
「……大丈夫だ。必要ない。」
 ローグの腕から降りて改めて彼の傷を見てそう心配そうに尋ね
てきたクリスティーアにローグはなんと答えるべきか逡巡したあ
と、そう答えた。担がれるのは勘弁したいらしい。
 クリスティーアはそのローグの答えに「そう?」と首を傾げた。
 だがローグはそれに1つ頷いて答えただけで、自分の足の傷に
指を伸ばした。
「?? 何すんの? 治療?」
 ローグの行動を見ながら尋ねてくる彼女に小さく首を横に振り
ながら、傷の下あたりから足を一周するように何かの文字を書き
始めた。クリスティーアに読めないということはおそらく古代文
字の一種なのだろう。
「何かいてるの? 『呪文字(スペル)』っていうやつ?」
 足に書かれていく文字を指差し言うと彼は少し彼女に視線を向
け一瞥してから
「そうだ。これで強制的に足を動かすんだ。今のままでは街で持た
ない。途中で動かなくなるだろうからな。」
 と答えたのだった。

  
























SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送