氷柱の獣
 
 
 
「っ! くっ……っ!」
 咄嗟に双剣を交差するように構え攻撃が体に当たらないように
守りに入ったが、その爪は当たらずも強力な腕力で飛ばされ背後
の大木に背を強かに打ちつけた。
 背を至近距離で木に叩きつけられそれにより激しく噎せこんだ
ローグは、相手の攻撃の間合いを取るのが精一杯だった。
「くっ……、こほっ。油断……したか。あの爪に当たったら流石に
怪我を負うな。」
 普通ではまず怪我ではすまなそうな爪に注意して、ゆっくりと
体を移動させ攻撃のタイミングを計りながらローグは口の中でそ
う呟き、今体を支えている木の向こう側にいるクリスティーアの
心配した。先程から引っ切り無しに聞こえていた彼女の声が聞こ
えない。その事実が彼の中に不安の影を微かに落とした。
 だが今は彼女の心配ではなくこの目の前にいるビーアンクを倒
すことに集中しなくてはいけないと自分に言い聞かせ、相手の第
ニ撃を地を蹴って横に飛ぶことで避けながら着地と同時に双剣を
構えた。
「彼女は弱いわけではない。大丈夫だ。」
 そう言い聞かせるように呟くと、自分に向けて振り下ろされる
爪を左手の剣で受け流しながら相手の懐まで一気に詰め、右手に
持った剣で切りつけた。
 それでもビーアンクの硬い毛に阻まれ致命傷には至らず、横か
らの爪を避ける為に右斜め後ろに飛び退いた。彼が一瞬前までい
た場所に鋭い爪が情け容赦なく一筋の線を残し走った。
 当たれば間違いなく何処かしらに叩きつけられ、身動きができ
なくなっていたであろう一撃を一瞥し避けながら、ローグの頭の
中には次にどうすべきかということが何通りも浮かんでいた。
 そして、自分の今の腕力では致命傷は与えられないと結論を下
すと、確実に一撃で相手を倒すことのできる規模の小さい魔法を
選び出した。
「凍れる氷晶の剣よ、春風夏光すらも凍てつかせ、蒼氷の御柱とな
らん。」
 氷系の呪文を一言呟くごとに彼の周囲の空気が凍てつき始めた。
 その間もビーアンクの攻撃が止むわけではなく、自分に向け振
り下ろされる爪を視界に捕らえながらできる限り避けていくも、
完全に避けられる程そちらに集中している余裕があるわけでもな
いためいく本かの傷が腕や肩についた。だがその間にも空気は凍
てつき続け所々では鋭い切っ先を持った氷の塊が作られ始めてい
た。
「そは氷精。彼のものを氷の柱に封じよ。封縛・氷晶櫃。」
 自らの周囲にできた氷の剣にも似た結晶をなぞるように緩やか
な円を描きながらビーアンクにその右手を翳すと、氷の結晶は手
が指し示すものへと襲い掛かるようにして突き刺さっていった。
 そして氷が光を反射したためか、それともビーアンクへとぶつ
かった衝撃でか鋭い光が走った後に残ったのは、幾本にも枝を分
けるようにして立つ氷の柱い閉じ込められた、爪を振り上げた姿
のビーアンクだった。
 氷の柱に閉じ込められたビーアンクを見て、安堵の溜息を零し
たローグは、少しの疲れと腕や肩は手は足にまで走った傷からく
る痛みでその場に膝を落とした

  
























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