舞姫の戦舞
 
 
 
 最初に受けた一撃が未だに体、特に背に痺れを残し、それを助
長するように体のあちこちにある傷が疼き、すぐどころか暫くは
立てそうにもなかった。
 一方、ローグとは反対の場所にいたクリスティーアは、なにや
ら膝ほどの高さの虎の小型版のような岩でできた魔物、キャロッ
クに囲まれていた。
「うへぇ。キャロック〜? こいつら硬いからきらーい。」
 そうげんなりとした様子で愚痴を零しながら自分に向かって飛
び掛ってきたキャロックを思い切り蹴り飛ばした。ほんの僅かだ
が、蹴り飛ばした場所に痺れが走る。そのことに小さく舌打ちを
すると更に飛び掛ってくるキャロックに回し蹴りをぶつけた。
 続けてその鋭い牙を剥き出しにして襲ってくるそれを下から上
へと蹴り上げ、勢いを殺すことなく下へ引き正面から飛び掛って
きた別のキャロックの顔面を蹴りつけ、その足を下に降ろしそれ
と同時に体を下に沈め横から飛び掛ってきたのをやり過ごし、す
ぐに体を起こしその場から飛び退き上からの攻撃を避け、更にそ
の場にいたキャロックを掴み別のキャロックへと投げつけた。
「あーもう! 一体何匹いるのよー!」
 あまりの数にそう叫びながら、それでも休むことなく襲ってく
るキャロックを撃退していった。
 次々と襲ってくるキャロックを撃退していくも、悲しいかな彼
女は人間であり女なのだ。たとえ力があろうともそれ相応の体力
しかなく、徐々にキャロックの攻撃を避けきれなくなり所々に傷
を負っていった。
「あいたた。体力持たないなぁ。どうやってこいつら倒そう。
数……多いなぁ。」
 まだ余裕のありそうな口調で独り言を呟いてはいるが、実を言
えば谷と木の角に追い詰められかなり危険な状態だった。
 その中で襲ってくるキャロックの攻撃を避けきれず深手を負っ
た腕を庇いながら、浅い傷が幾筋もはしっている足で襲ってくる
敵を蹴り飛ばしつづけていた。
 だがそれにも限界があり、流石にやばくなってきたクリスティー
アは必死になって目の前の敵を倒すための術を探した。
 攻撃系の中でも火系のものは使えないし、地系は効果がない。
風も地と似たり寄ったりであるため、残りは水のみだった。あま
り気は進まないものの他に方法がないと腹を括ると、傷を負うの
を覚悟で詠唱をはじめた。
「始まるは始原、消うるは虚空、流るるは水。」
 詠唱の最中に幾筋もの傷を負い、幾度もの痛みがはしるがそれ
は覚悟の上だった。その中更に続ける彼女の周囲には薄い霧が渦
巻き始めた。
「祖は始まりのもの、誕生のも、そして終わりのものにして、忙殺
もの。
 その激しき流れは魂と記憶の歩にして、始原と終焉への歩!」
 周りの霧が水滴となり徐々に厚い水の膜へとなっていく。それ
を前に突き出すように両手を前に掲げると目の前の魔物を睨みつ
け最後の一句を紡いだ。
「スウィフトカレント!」
 鋭い声に反応するように彼女の周りの水が溢れるように膨らみ、
それはキャロックに向かって襲い掛かった。
 そしてその水は激流となり数十はいたかと思われたキャロック
を情け容赦なく流していき、それが収まったときには彼女以外に
見える場所で動く生き物はいなかった。
 また、彼女の1歩分の距離の円形の範囲以外は水に濡れ、豪雨
でも降った後のようになっていた。

  
























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