僅かな休息
 
 
 

 クリスティーアはローグの後を追っていくと、彼は谷の半ばよ
り少し上にある部屋に彼女を招きいれた。
「谷にある割に広くてきれいなのね。崩れないの?」
 中に入ったクリスティーアは開口一番にそういった。緊張が解
けたのか口調は幾分砕けた感じのものになっていた。
 ローグは彼女の変貌にも大して気にした様子も無く一瞥しただ
けで
「谷に穴を掘り、その側面が崩れぬように呪文を掘り込んであるの
だ。」
 と大した問題でもないような口調で答えた。
 そんな彼の反応にクリスティーアは少しむっとしたような表情
をしたが、何も言おうとはしなかった。
−一応皮肉だったんだけどなぁ……。−
 と、そんな事を思いながら部屋を見て周った。その部屋の壁と
天井の間あたりに見たことの無い文字が部屋を囲むように書かれ
ていた。
 おそらくこれが側面を崩れないようにするための呪い(まじない)だろう。
と思いながら眺めた。
「クリスティーア殿、紅茶が入った。こちらに座られるとよい。」
 部屋をぐるぐると回っているクリスティーアに呼びかけた。
 彼女もローグの呼びかけのそちらを向くとひとつうなずいて、
彼の近くに、というよりも向かいにある椅子に座った。
 ローグはそのクリスティーアに入れたばかりの紅茶を差し出し
た。
「コーヒーの方がよろしいかもしれないが、ここには紅茶などの葉
茶類しかないのでな。我慢していただきたい。」
「かまわないわ。コーヒーは胃が荒れるから嫌いなの。」
 ローグの言葉にあっさりとした口調でそういうと紅茶を口につ
けた。ちょっと濃いように感じたが、嫌いな味ではなかった。
 そのあとは双方ともに何も話すことは無いので黙々と紅茶を飲
んでいた。
 そうしてるうちに軽食を少女が運んできた。内容はサンドイッ
チとスープだった。クリスティーアは頓着無くパクパクと食べて
いたがローグはしばらく見ているだけで一口も食べようとはしな
かった。
「?? 何で食べないの? おいしいのに。」
 首を傾げて尋ねてくる彼女を少し見てから瞳を伏せて
「私達はあまり食べる事を必要としない。」
 と答えたのだった。
「でも持ってきたわよ? 今の人。」
「もう3日ほど人の前で食べてないので持って来たのだろう。」
 自分の言葉に真顔でさらりと答える彼に彼女は完全な呆れ顔を
した。
「でも、一応食べたほうがいいんじゃない? 心配されてんだ
し。」
「………………………………………………だ。」
「は?」
「いや、だから今朝方、食べたばかり……。」
 クリスティーアからの言葉に随分とバツの悪そうな表情で答え
た。
 その答えに彼女も呆れたを通り越して諦めたような表情をし
た。そしてため息を1つ吐くと彼の前にある皿を取り、その上に
乗っているサンドイッチを食べ始めた。
 彼のほうはクリスティーアの突然の行動に目をしばたかせなが
ら見ていた。
「何見てるの? 変わりに食べてあげるから、スープぐらい飲みな
さいよ?」
 ローグの行動に不満そうな表情でにらむとそういって、自分の
スープを彼の前に置いた。つまりは自分の分も食べろ。というこ
とらしい。
 野菜で作られたスープに口をつけるととりあえず2皿とも何と
かいけるだろうと考えてゆっくりと食べていった。
 そして10分ほどかけて2人とも軽食をゆっくりと食べきると、
また紅茶を飲んだ。
「ところで、最初に行く記憶の封地なんだけど。」
 紅茶を飲み終わり、一息つくとクリスティーアがそう切りだし
てきた。だが、その口調は近くの店にちょっと買い物にでも行く
ように軽いものだった。
 そんなクリスティーアの態度に呆れる様子も無く淡々と
「ならばここから最も近いサティーティアの町にある『哀惜の記憶
の封地』にしては?」
 そう答えた。
 クリスティーアもその意見に反論は無いらしくうなずくと、「い
きましょっか?」と席を立ち上がった。ローグもそれに答えるよう
に立ち上がると、壁に立てかけてあった杖と小ぶりの双剣をとっ
た。
「あなた剣使えるの!?」
 心底意外そうに言う彼女に憮然とした表情で
「一応なりには、体得ぐらいはしている。実戦そのものは数える程
度だが。」
 といったが、クリスティーアはそれでも尚意外そうな表情をし
ていた。
「ふーん。私は全然だめなのになぁ……。武器持つより体術の方が
得意だし。」
 そう小さく1人ごこちて部屋を出て行った。
「………………じゃじゃ馬……か。」
 出て行ったクリスティーアを見て一言呟いた。普通の人ならば
聞こえずとも、龍人族である彼のよすぎる耳を持ってすればその
言葉をしっかりと拾うことができたのだった。
 これから起こりうる可能性のある事柄を考え珍しくも苦笑する
と、彼女の後を追って部屋を出て行ったのだった。
 
 これから起こることは2人の過去であり未来
 過去の伝説は今未来の神話へと変わる

  
























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