クリスタル=ローグ
−人の少女と竜の青年−
 
序章:人間の巫女と龍人の祭司
祭司と巫女、会合す
“星が滅ぶ”表上はそう言われている事。だが本当はゆっくり
と、そう、ただゆっくりと
()()生きて(・・・)きた(・・)()()
忘れはじめて
(・・・・・・)
いる(・・)だけ(・・)
高い山にはさまれるようにして存在する谷。そこにある突き出た
角のような場所で一人の青年が立ち、夜が明ける直前の空を見つ
めていた。
「星の、忘却が、始まっている。」
低く静かな声で呟くと、また黙って空を見つめつづけた。
高山特有の冷たく湿った風が強く吹き付けてきた。その風に長い
髪が弄ばれるままにしていたが、それでも少し鬱陶しげに掻き揚
げたのだった。
 そんな事を1時間か2時間ほどもしていたころ、完全に夜が明け
た空を見ていると後ろの方からよく知った気配が近づいてきたの
でそちらを見た。するとそこにはやはり同族のよく見知った少女
がこちらに向かって走ってきていた。
「ああ、ローグ祭司様。長老様が御呼びでございます。
 なんでも人間族の巫女様がいらっしゃったと言う事でございま
す。」
 少女は走って来た事で上がった息を整えると、両膝をついてそ
う伝えてきた。彼はその連絡を聞くと「そうか」とだけ呟き、先程
彼女の走ってきた道を逆にたどっていったのだった。
 そして谷と山に沿うようにして続く道を歩いていき、目的の部
屋の前につくとそっと、とを3回叩いて入室の許可を待った。
「……ローグかえ?」
「はい。お召しにしたがい参りました。入ってよろしいでしょう
か?」
 淡々と抑揚の欠片もない口調で答えると、中から入室を許可す
る言葉がかけられ、彼は静かに黙ってはいっていったのであっ
た。
 そして、中に入るとそこにはすでに先程聞いた人間族の巫女と
思われる少女が立っていた。
 その少女が立つ位置より少し奥に座っていている長老−と呼ぶ
にはいささか若すぎる外見ではあるが−が立ちあがるとローグを
手招きで呼んできたので、その少女の近くまで行くとそこで立ち
止まった。
「クリスティーア殿、そちらが我ら龍人族の祭司、ローグ=クロノ
リアじゃ。実力は言うまでもなく我らの中で最強じゃよ。
 ローグ、こちらは人間族の巫女様で、クリスティーア=ロレン
ス殿じゃ。『星の記憶』を探す為の旅に出られるそうじゃ、そこ
で……。」
「その旅に同行し、彼女の補佐をせよ。ですか。私も承知しており
ます。
 後5日も遅ければ私のほうから向かおうと思っておりましたの
で。」
 やはり淡々と横にいるクリスティーアを一瞥してから告げた。
最初からわかっている事らしい。
 とくに気にした様子もなく淡々とした調子で話す彼には、とく
に感情の変化というものは見られなかった。
「それは申し訳ありません。私もつい3日前にやっと16になったと
ころですので
v
 そんなローグにクリスティーアはにこりと笑っていった。微妙
に怒りがこもっているように感じる。
 彼も彼女のその一言に少し眉をよせたが、すぐに何もなかった
かのような無表情で「それは、失言失礼した。」とだけ呟いたのだっ
た。
「ではローグ、クリスティーア殿、出立は正午となさるとよい。
 クリスティーア殿はお疲れであろうからな、睡眠とまではいかぬが、
せめて食事をお取りになられるとよい。」
 長老と呼ぶには若すぎる外見をした彼はクリスティーアとロー
グに微笑みながらそう言うと、手で退出してよいと許可を出し
た。
 ローグはそれを目で確認すると退出のための礼を取り、そのま
ますぐに部屋を出ていった。出ていく際に
「その口調似合いませぬぞ。リオル様?」
という一言を残して。
 その一言にリオルと呼ばれた長老ははっきりとわかるぐらい眉
をよせたが、
 すぐに先程と同じ微笑を浮かべた。
 一方、クリスティーアは驚いたように2人を交互に見たが、長
老の「ローグについて行かれるとよい。」という言葉に促されて「失
礼しました。」と一礼すると慌ててローグの後を追って部屋を出て
いったのだった。

 
























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