不思議な兎との遭遇
 
 
 
 その後もケルトが何かといって代金を渡そうとしていたが、結
局受け取ってもらえそうになかった。
 火有はなんとなくだがもしかしたら本気で受け取る気がないの
かもしれないと思い、困ったように隣に立つボリスに苦笑を向け
た。ボリスもどうすべきかというように火有に苦笑して視線を向
けていた。
 そしてまだ必死に何かを言って代金を渡そうと四苦八苦してい
るケルトに軽くため息をつくと
「ほれ、店主さんがいらねーつってんだから、ここは甘えとけっ
て。
 つうわけで、どうも。これ、大切にさせてもらいますんで」
 ケルトの口を後ろからふさぐと店主にそういって頭を下げ、そ
のままケルトを無理やり後ろへと引きずって言った。
 そのまま2,3mも歩いたところで前屈みの姿勢が辛くなり手
を離すと、それと同時にケルトが大きく息をついた。どうやら口
と一緒に鼻も塞いでいたらしく息ができなかったらしい、苦しい
ならば苦しいといえばよかったのにと思わなくもなかったが口が
塞がれた状態ではそれも叶わないだろうとは、
(のち)のボリスの(げん)であ
る。
「く、くるひかった」
「わりぃ。ちいちゃかったんだな……」
 苦しげに肩で息をするケルトに苦笑して返すとばつが悪そうに
頭の後ろを掻いた。その隣ではなんとなくとはいえわかっていた
もののとめなかったボリスもばつが悪そうに明後日のほうへと視
線を泳がせていた。
 そして前のほうへと視線を向けたところで何かに気づいたのか
一気に固まった。
「? どうし……? って、うぅえぇぇ〜〜〜っっっ!!???」
 そのボリスの反応に気づいたケルトがそのまま彼の視線を追う
ように前を見ると其処には、なんと言うべきか前から大量の、懐
中時計を首から提げた兎がこちらから走ってきたのだ。それも1
羽や2羽ではなく、大量に、まるで怒涛のごとく、津波のよう
に……。
「な、何あれーーーーっ!??」
「時計兎? いや、懐中時計持った兎……じゃねーのかな……?」
 慌てるケルトの言葉にどういうべきかわからないというように
首を傾げながらそう呟くと、ボリスはまだ現実に戻りきれていな
いらしくどこか呆然としていたが、とりあえず前から走ってくる
大量の生き物は間違いなく兎である。それだけは間違いない。
「捕まえるぞ」
 とりあえず目前まで近付いてきている兎を捕まえるために着て
いたコートを脱ぐと、さっと最初に到達した兎を絡めとった。
「おお、鮮やかですね」
 火有の鮮やかな行動に目を丸くするとそういって自分も足元を
通り過ぎようとした何羽かをさっと掴み取った。隣ではケルトも
同様に掴み取ってはなにやら魔法か何かで作ったらしい丸い器に
入れていた。
 火有はそのことに苦笑しながらもてきぱきと走ってくる兎を器
用に捕まえていくとコートの中へと1羽づつ放り込んでいった。
 そして最後の1羽になったところであわててこちらに走ってく
る人物に気づきその1羽の首根っこを掴みながら立ち上がった。
「これ、あんたんとこの?」
 首の根っこを掴まれ、今は一応おとなしくなっている兎を持ち
あげてそう尋ねると、走り寄ってきた相手は肩で苦しそうに息を
しながらどうにか頷いたのだった。
「つかぬ事をたずねますが、どうしてこんなに沢山、えーと……
脱走したんですか?」
 ボリスが困り気味にそう尋ねると、事の次第は息が整ってから
説明されたのだった。

  
























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