水の広場

　この城門はどうやら堀の中間辺りに造ってあるらしく、その先
もまた堀だったが、そこから見る街はとても活気に溢れるものだっ
た。

｢へぇ……。城で見た通りって言うか、綺麗だな。活気もあって、
東京みてー。｣

｢トーキョー？｣

　火有の言葉に首を傾げて聞き返すと、彼は｢ここみてぇな場所。｣
とあまり説明になってない返答を返したのだった。

　遠目にも解かる活気に楽しげに笑いながら周りを見ていた。

　太陽の光で白く光る街に、綺麗に舗装された道、一定の感覚で作
られている花壇、そして堀から道の中心を下にかけて流れる水の小
川。どれをとってもこも街の活気を際立たせていた。

　城門の前ということはおそらくこの前に広がるのが大通りなのだ
ろう、その道を歩きながら火有はそれとなく、行ってみたい店を捜
していた。

｢すげぇな、ケルト。なぁ、後でいいから服屋行きてーんだけど、い
いか？｣

　店を興味深げに見ながら歩調を合わせて歩く火有に、少し苦笑気
味になりながら｢わかったよ。｣と伝え、それに満足げに笑った火有
と共にこの大通りの中間にある噴水の広場へと歩いていったのだっ
た。

　そこは中央に大きな城に在ったものとよく似たデザインの龍の銅
像を中心に水の溢れる噴水があり、そこを囲うように丸く花が咲き
誇っていて、広場と呼ぶに相応しい円形の広がりを造ったまさしく
憩いの場だった。

　火有はその広場の噴水の前に腰を降ろし、さも楽しそうに広場で
くつろぐ人たちを眺めた。

｢んー。ここは気持ちいーな。……水は殆ど氷水みてーだけど。｣

　うんと伸びをし、頭の上に上げていた手を後ろの噴水の水に浸け
てそう感想をもらした。季節の変わり目なら可笑しくもないと思い
ながら水を救い上げパッと上に放った。

　水滴が太陽の光を乱反射し、煌く様をやはり楽しそうに眺めてい
たが、ふと腰元の花に眼をやると、他の花は上を向いているのにそ
れだけが項垂れ、萎れかかっているのが目に入った。

｢あーあ、萎れちまって、ちゃんと水が届いてねーんだな。｣

｢え？　あ、本当だ。｣

　火有が呟いた言葉にケルトも同じ場所を見てそう言葉を漏らした。

　火有は少し何かを考えるようにぬれた左手で頭を掻くと、少しそ
の手を見て良い事を思いついたというように口元を緩めると、その
手を水に浸けて水を掬い上げた。

｢？　その水、どうするの？｣

　火有の突然の行動に首を傾げながらそう尋ねると、彼はにっと笑っ
てその手に掬った水を萎れかけた花にそっとかけた。

｢あ、花にあげるんだ。｣

｢そゆこと。｣

　両手を合わせ、嬉しそうに言うケルトにそう笑って答えると、も
う１度同じことを繰り返した。

　そうやって水をやると、その花もほんの僅かだが生気を取り戻し
たように見え、火有は楽しげに笑ったのだった。

　そして花から眼を離し、広場の方に再度視線を向けて人々を眺め
た。

｢やっぱ、良いとこだな。人の表情が暖かい。｣

　そう笑って感想を漏らし、腰掛けていた噴水の縁から立ち上がる
と、改めて今度は人ではなく広場そのものを見渡した。

　広場は大通りと同じように色とりどりの石で様々な花の絵がおそ
らく季節ごとに描かれていて、噴水を中心に水の流れる溝のような
ものが四方に張り巡らされ、上から流れる小川の水が合流し、ゆる
い坂になっているのか下の大通りに流れる小川に再び合流して流れ
ていた。

　どうやらここの大通りを流れる小川は全体を通してかなりの広さ
があるらしい。

｢へー、綺麗に整備されてんなぁ。｣

　広場を見渡し、足元の近くを流れる水(・)の(・)上(・)を(・)蹴りながら(・・・・・)そう感
心しきったように感想を漏らした。

　ケルトはそれに大変らしいですよ。とどこか苦笑気味に言った。
手伝ったことがあるのかも知れない。

｢じゃぁ次は川に行こう？　綺麗な場所なんだ。｣

　そう言って火有の腕を引き大通りの方へと歩いていった。

　火有はそのケルトの行動に目を白黒させながら惹かれるままにつ
いて行ったのだった。