言葉と苺の飴
 
 
 
 ケルトは店員が完全に離れたところで神巫の追加注文に不思議
そうに首を傾げた。
「紅茶と珈琲ですか?」
 ボリスも同じように思っていたらしく、隣に座っている神巫に
尋ねた。
「…………ああ、甘味対策に…な。」
 ボリスの問いにげんなりとした感じに答えた。
 はっきり言って甘いものが最も苦手な彼にとって、彼の頼んだ
苺パフェは見るどころか聞くだけでも胃にくるものがあった。
「神巫さんって、小食なんですか?」
 話を聞いていたのか、いなかったのかそんなことを聞いてくる
ケルトに軽く眉を寄せると、
1つ頷いた。
 聞いてくる時期はともかく、それは事実なので否定する理由は
ない。今日は特に食べていないのだが……、それを言う必要もな
いので何も言わずに黙った。
 黙ってしまった神巫にまた不満そうに頬を脹らませて不平を示
したが、それにも何も返してくれない神巫に完全に不貞腐れてし
まったケルトは、今度の標的をボリスに変更したらしく
「ボリスさんは? あまりたのみませんでしたよね? ボリスさん
も小食なの?」
 と話の矛先を向けた。
 ボリスはそのケルトの言葉にきょとりとした表情になると、ば
つが悪そうに頬を掻いた。
「いえ、小食、と言う訳ではないんですけど、その、お金が……。」
 どうやら川に流されていた時に一緒にどこかに流されたらしく、
彼の持ち物はなかったので多分それを気にしているのだろう言葉
だった。もしかしたら小額でも持っているのかもしれないが。
 だがそのボリスの言葉に完全に呆気にとられてしまったような
表情になったケルトが、口をぽかんとあけて何も言えずに固まっ
ていた。まさかそう返されるとは思っていなかったらしい。
 それを見ていて小さく嘆息した神巫だが、実を言うと彼もそれ
を思って注文の量を少なくしていたのだ。何せ彼はこの国どころ
かこの世界の住人ですらないのだ。当然通貨など、持っていない。
 ケルトは暫くして俯いたあと肩を震わせていた。どうやら呆れ
ているか、怒っているかのどちらからしく、手も僅かだが震えて
いた事から怒っているのだろうと神巫は推測した。最も外れてい
るだろうなとも思っていたのだが。
「それぐらい僕が出すよ!!! これでもっ…………ふぉふぐ
ふぁ…………っっ!!」
 一気に顔を上げて声を張り上げたケルトに最後まで言わせる事
なく、神巫は彼の口にやや大き目の飴玉を押し込んだ。
 ケルトはケルトで急に口に押し込められた飴玉に目を白黒させ
て言葉を止めたが、それ以上にどうやら入れ方が悪かったらしく
喉の奥のほうに入りかけたらしく、思い切り咽こんでしまった。
 神巫は噎せこんだケルトの様子に、さすがに悪いことをしたか
と外を見るように視線をそらせた。
 実を言えばこんな場所で『王子』などという身分を大声で宣言
されては堪らないと思い、咄嗟に−ケルトは気付かなかったよう
だが−途中で何かの宣伝代わりに配られていた飴を口の中に押し
込んだのだ。
 最も半ばそれも無駄だったかもしれないとは思っているのだが。
何せ先程の途中までの声でも周りには充分に聞こえていて、今、
思い切り注目されてしまっている。
「けほっ。かんなぎざん……ひど…………。」
「こんな場所で自分の立場を言おうとした貴殿が悪い。」
 喉に入りかけた飴をどうにか出したらしいケルトの低い非難の
声に、しれっとそう答えると明後日の方を見た。
 なんとも冷たい神巫の言葉にケルトはさらに顔を顰めると低く
唸った。別に神巫の言い分が解からないわけではない。外に、そ
れもこんな風に店で食事をとってる方がおかしいという事も解かっ
ているのだ。
 だが、それでもこの行動は少しいただけないと、口の中に甘い
苺の味を広げる飴玉を思い切り噛み砕きながら思ったケルトだっ
た。
 ボリスはそんな2人の様子を、完全に取り残されたも同然な状
態で見ていたが、それに気付いた神巫が小声で
「先も説明した通りだ。この国の王族相手に何故そんな心配をする。
という事らしい。」
 と説明した。
 その言葉にボリスもやっと納得したというように手を合わせる
と、少し困ったように苦笑を向けた。立場よりも年齢的に、年下
に奢ってもらうというのは複雑です。と暗に言っていた。神巫な
らばこれだけでわかるような気がしたのだ。
 もちろん神巫はそのボリスの考え通りに相手の考えを正確に読
み解いたが、表情を変えるとことなく、肩を竦めるだけで現状を
諦めるように示したのだった。ついでに相手の顔を立ててやれと
も、思ったりしたが、これは気付かなくてもいいと思った。
 そんなやり取りをしていると、店員が注文した内のいくつかを
持ってきてくれた。

  
























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